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求人情報に開示される給与幅に大きなばらつき
賃金の透明性を義務づける法律の制定が急速に進んでいる。米国では、2025年の時点で15の州と首都ワシントンで、求人情報に給与範囲を開示することが義務づけられており、求人サイト「インディード」に掲載された求人の約60%(2020年の18%から増加)が給与情報を含んでいた。
その狙いは単純明快だ。労働者によりよい情報を提供して、公平な土俵をつくり、根深く存在するジェンダーや人種による賃金格差を取り除くことにある。しかし、多くの場所で、こうした法律は給与幅の開示に重点を置いており、その幅がどの程度であるべきか定めていない。このため、雇用主にはかなりの裁量が与えられている。
その結果、求職者が目にする給与幅には大きなばらつきがある。たとえ同じポジションであっても、だ。たとえば、2023年にカリフォルニア州で賃金透明化法が施行された時、テスラは「シニアソフトウェアエンジニア」を8万3000~41万8000ドルの給与幅で募集した。これに対して、ウーバーは同じポジションの給与幅を17万4000~19万4000ドルとしていた。同じ州で、同じ法律の下、同じ仕事にもかかわらず、テスラの場合33万5000ドル、ウーバーの場合は2万ドルの給与幅があった。ネットフリックスはさらに大きく、ソフトウェアエンジニアの給与幅を9万~90万ドルとした。
テック業界だけではない。カリフォルニア州法が施行される数週間前、ニューヨーク市で条例が施行された際に、シティグループは「カスタマーサービスオフィサー」の求人票は給与幅をゼロ~200万ドルとしていたが、その後、約6万~15万ドルに修正した。
筆者らが米国の求人情報約1000万件を分析したところ、こうした大きな給与幅は広い範囲で見られることが確認された。求人票に示された給与幅は平均約3万8000ドルで、標準偏差は6万6000ドルを超えた。つまり、同等のポジションについて、ある雇用主の示した給与幅が2万ドルだとすると、別の雇用主の示した給与幅は10万ドルを大きく超える可能性があるということだ。
企業が求人の給与幅を大きくする理由は理解できる。同じジョブでも、いろいろなレベルがありうる。リモートのポジションの場合、地理的な場所による生活費の違いによって報酬に調整が必要になることもある。テクノロジーや金融のような業界では、さまざまな報酬(ボーナス、株、コミッション)が最終的な報酬額に大きな差をもたらす。
そして、規制当局の指導は限定的だ。ニューヨーク市で条例が施行された時、市の人権委員会は、どの程度の給与幅なら問題がなく、「誠実な」推定額として認められるかを明示しなかった。調査会社ガートナーの報酬コンサルタントによると、一般的なアプローチは目標予算の上下20%の範囲とすることだが、多くの求人票の給与幅はそれをはるかに上回る。
シニアリーダーにとっての課題は、この給与幅が、いかに実用的であっても、予期せぬ結果(とりわけどのような人材が応募してくるか)をもたらすことだ。
給与幅が応募者に与える影響
筆者らは、米『応用心理学ジャーナル』誌に掲載予定の調査で、求人票に開示される給与幅が、求職者による応募の決断や、応募後の金額交渉にいかに影響を与えるかを、とりわけジェンダーに焦点を絞って調べた。
4つの研究(求人情報と労働力データの組み合わせの分析、アンケート調査、実際の応募者を対象としたフィールド実験を含む)により、一貫したパターンが見つかった。女性は男性よりも給与幅が狭いジョブを好む傾向が強かった。このことは筆者らの実験だけでなく、労働市場自体にも表れている。米国の求人情報や雇用記録のアーカイブを分析したところ、掲載された給与幅が広いほど、そのポジションの労働力における女性の割合は低かったのだ。企業の規模など他の要因を考慮に入れても、同じ傾向が見られた。
何がこのパターンをもたらしているのか。筆者らのデータは、リスク回避における違いを示した。同じポジションについて2つの求人票があるとしよう。一方の給与幅は5万5000~7万5000ドルで、もう一方は4万~9万ドル、中間額はどちらも6万5000ドルだ。ところが、給与幅が大きいと、実際に自分の給与がいくらになるかについて不安が大幅に高まる。女性は平均して、このタイプの経済的不透明感をより嫌う傾向がある。このことは経済学や心理学の長年の研究で示されている。







