――― だったらファイナンスとかアカウンティングなんかは?

「話にならない。連中は出てきた数字を机の上でいじくっているだけで、実際のビジネスがどう動いているのかこれっぽっちもわかっちゃいない。しまいにゃ会社の金を陰で操作されて、気づいたときには特別損失の山なんてことになったらしゃれにならないぜ」

――― マーケティングはどうでしょう?

「冗談だろ。そういうことをぐだぐだ言う奴に限って、客に頭一つ下げられないんだから。理屈でものが売れたら話は早いよ」

――― どういうお答えが来るかよく分かっているうえで、一応聞いておきますけれど、僕の専門の戦略などは?

「やめてくれ。戦略ったって、そんなものは机上の空論だろ。商売は結局のところ実行がすべて。実際に組織が動いてナンボの世界なんだよ。現場の気持ちがわからない奴に戦略なんて立てられない。あんたが酒も飲めないくせ戦略論を教えているのは、俺にいわせればイタリア人に俳句を習うようなもんだね」

――― やっぱりそう来ましたか。お話を伺っていると、やっぱり特定の専門能力というよりも、それまでの仕事の実績で評価するしかないのでは。

「ちょっと待て。考えてもみろよ。なんでプロ野球の契約更改であんなにもめるんだ。実績を持ち出されると、かえって話がまとまらないんだよ。ましてや野球と違って会社の仕事だよ。実績が数字にならない仕事もあるし、そのときの運不運もある。実績なんてあてにならないね。評価っていうものは、あんたが考えるほど単純な話じゃないんだよ」

――― 人事部長、それならお聞きしますけど、お話を伺っていると、「スペシャリストを重視した能力主義の採用や評価」なんてそもそも無理なように聞こえるのですが。

「いや、できる。そのために俺がいるんじゃないか。それが人事部長の仕事だよ。」

――― もしかしたら今度の人事システムの抜本的改革というのも....。

「そう、ようするに俺たちがますます気合いを入れて評価していくってことさ。なんたって俺はその道のスペシャリストなんだから。」
 

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