D攻撃

 D攻撃の歴史も古い。H攻撃と違って、こちらは「敵は身内にあり」なので余計に厄介な問題だ。まず僕は太りやすい体質を抱えている。そのくせ、甘味とスナックが大スキ。ベットに寝転んでスナックを食べながら本を読むというのが三度の飯よりスキ。

 しかもスポーツが大キライときている。走るどころか、歩くのもイヤ。海よりもプール、プールよりもプールサイド、プールサイドよりも冷房の効いた室内、室内で読書と映画と音楽鑑賞という根っからのインドア文化系。Dの条件がそろいまくっている。

 しかも加齢とともに代謝は衰える。30代後半にはD攻撃がますます苛烈になった。そのころには、「攻撃は最大の防御」の丸刈り戦略でH問題は克服していたわけだが、客観的に観ればHであることに変わりはない。これに加えてDである。86キロになったとき、自分の姿を鏡で見て、わりとヤバい!と思った。

 そこで急きょ参謀本部の会議が招集された(脳内で)。で、すぐに「D作戦」が決定された。DはDでもダイエットのDである。ようするに、またしても当座の戦略が「防御」になってしまったのであった。

 D作戦はすぐに実行に移されたが、この難点はとにかくつらいことである。走るわ、ポテトチップスは食べないわ、カロリーは計算するわの難行苦行。もちろんときには戒律を破って、「マウイ・ポテトチップス」(これがとにかくスキ)の袋を破るや否や狂ったように完食してしまうこともある。そうしたときは後悔と反省がストレスになってD作戦のつらさに追い打ちをかける。

 それでも1年で10キロ減量し、それなりの達成をもってD作戦は終了した。ところが、作戦を終了すると、すぐに新たなD攻撃が始まる。そこで参謀本部会議が開かれ、2度目のD作戦が開始される(コードネームはD2作戦)。解決したかと思うと、さらなるD攻撃。で、D3作戦の策定と実行……。キリがない。

 さすがに参謀本部ではD作戦の効果に懐疑的な声は日増しに強まった。そんなあるとき、ひとりの参謀(僕。参謀本部は全員僕で構成されている)が主張した。「Hとの戦いを思い出せ!防御ばかりではじり貧だ。Dに対しても、攻撃は最大の防御でいくべきだ!」

 D攻撃に対する「攻撃は最大の防御」は筋トレだった。スポーツは嫌いだが、最低限の肉体的・精神的健康を維持するために、僕はジムに行くのを習慣にしている。ここに目をつけた参謀本部の戦略はこうだ。上半身、とくに大胸筋を強化する。すると、体重的にはわりとDでも、見かけは「がっしりした体格の人」ということになる。DでありながらDには見えない。少なくとも見た目のDを緩和できる。

 即座にD作戦は中断され、代わってDKK(大胸筋)大作戦が始まった。もとよりアスリートになるためのトレーニングではない。足とか腿とか持久力とかはどうでもいい。とにかくDKKを中心とした上半身だけ、余計なところは一切鍛えないという「選択と集中」が功を奏して、DKKはみるみるうちに強化された。

 腹部は十分にDの貫録だ。しかし、DKKが前面に出ているので、服を着ていれば腹部のDが隠ぺいされる。スーツのときはもちろん、Tシャツ着用時においても、マッパにさえならなければ、ちょいDぐらいにしか見えない。しかもD作戦につきもののストレスもない。スナックもプリンもシュークリームもある程度までならOKだ。気分爽快、逆転勝利(?)である。

 ということで、僕は「攻撃は最大の防御」を戦略の基本として、H&Dの執拗な攻撃を封じ込め、二大問題を(ある意味では)克服したのであった。次回はいよいよ、この極私的経験を事例として、「攻撃は最大の防御」の背後にある論理を考えてみたい。乞うご期待!

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