対人スキルに欠けるリーダーが変革を失敗させる理由
eAlisa/Getty Images
サマリー:変革を進める際、リーダーが従業員の心理的な抵抗を正確に読み解けるかどうかが、その成否を決める大きな要因になる。優秀なリーダーほど、従業員の沈黙を賛同と誤認し、結果として変革が停滞し、組織の危機を招く傾向がある。しかし、そうしたリーダーの人々の感情を読み取る能力の欠如は、適切なフィードバックと仕組みの再構築により克服可能だ。本稿では、リーダーの認識と従業員の心情の間にあるギャップを埋め、変革の停滞を打破するためにリーダーが取るべき具体的な4つの戦略を紹介する。

変革を進める際、部下の心の中の抵抗に気づいているか

 成長著しいバイオテクノロジー企業でチーフ・トランスフォーメーション・オフィサーを務める「ミンディ」は、変革に着手して6週間が経過した頃、シニアチームが気づいていなかったある事実を示すデータを突きつけられた。エンゲージメントスコアが40%低下し、離職率が倍増していたのだ。経営幹部の誰一人として、この事態を予見できていなかった。

 筆者はミンディの会社のCEOから、シニアリーダーシップチームのコーチとして起用したいと打診され、その際、彼からこう説明を受けた。「ミンディには、戦略面での支援は不要です。彼女に必要なのは、部下の身に実際に何が起きているのかをリーダーたちに理解させるサポートです」。CEOは、変革が勢いを失いつつあるのを目の当たりにしていた。その原因は計画の不備ではなく、技術的には極めて優秀なシニアリーダーたちが、変化に対する従業員の反応を一貫して読み誤っていたことにあった。彼らは再編案を提示し、その場で反論が出なかったことで、全員が合意したと信じ込んでいた。しかし、実際は、チームのメンバーは意欲を失っていたのだ。

「彼らはけっして能力のないリーダーではありませんでした」と、最初のセッションでミンディは語った。「彼らは専門知識と戦略的思考を評価されて昇進しました。人の心を読むことは、職務記述書に含まれていなかったのです」

 こうした状況はけっして珍しくない。2021年のマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、自社の変革が長期的に成功したと回答した割合は、全体の3分の1にも満たない。なぜこれほど結果が芳しくないのか。リーダーシップや組織の不備としてよく挙げられるのが、志の低さ、納得感のない大義名分、実行力の欠如、パフォーマンス維持の失敗などだ。しかし、筆者の経験に照らせば、そこには人間的な要素も関わっている。抵抗を察知できず、沈黙を賛同と勘違いし、正当な懸念を単なる不平不満として片づけてしまうリーダーの存在だ。変革を主導する側が、その渦中にある人々の心を読み解けなければ、いかに優れた構想でも頓挫してしまう。

 エグゼクティブコーチやリーダーシップ開発のアドバイザーとして活動する中で、筆者はこのパターンを繰り返し目にしてきた。組織は変化を推進するためにリーダーを任命するが、人々を正確に読み解く能力が欠けていれば、最強のチームであっても足並みは乱れていく。変化への抵抗に見えるものは、多くの場合、リーダー側の認識のずれにすぎない。効果的に対応するリーダーは、チームメンバーの交代や計画の破棄から始めるのではない。リーダーが認識していることと、人々が実際に経験していることの間にあるギャップを埋めることから始めるのだ。本稿では、そのための戦略を紹介しよう。

1. 個人を責めるのではなく、ギャップを特定する

 変革が停滞すると、リーダーのコミットメントが不足しているのではないかと疑いたくなる。しかし、より深い問題は認識のずれにあることが多い。自分の意図した影響と、実際に周囲が受けている影響との間の乖離にリーダー自身が気づいていないのだ。

 中堅食品メーカーのCEOであるデイビッド(仮名)は、この事実を身をもって知った。彼は筆者に、製造部門担当バイスプレジデント(VP)のコーチングを依頼した。そのVPは、従業員の抵抗を怠慢と読み違えていた。「彼は『従業員はただ方針に従えばいいんだ』などと言っていた」とデイビッドは振り返る。「しかし、私が会議に同席してみると、彼は正当な懸念を不満として切り捨てていた。本人はその違いにまったく気づいていなかった」

 経営幹部のスキルギャップに関する研究によれば、これは知性や努力の問題ではなく、構造的な問題だという。組織はしばしば、他者を鼓舞したり関係を構築したりする対人スキルではなく、テクニカルスキルに基づいて昇進を決定するからだ。たとえばギャラップの調査では、マネジメント職に適した能力を持つ候補者の選任に失敗している企業が82%に上る。そして、その人選は、マネジメント能力の実績よりも、前職での成功や勤続年数に基づいていることが多い。

 デイビッドと筆者は、「リアリティ・オーディット」を設計した。これは、シニアチームが部下と接する様子をデイビッドが観察し、彼らの主観的な認識と実際のエンゲージメントデータを照らし合わせるという体系化されたチェック機能だ。デイビッドはVPに「いまの会議はどうだったと思いますか」と尋ねる。VPが「素晴らしかったです。全員の足並みが揃いました」と答えると、デイビッドは同じチームから回収した匿名のパルス調査の結果を見せる。すると、12人中8人が「議論されている変革の根拠が理解できない」と回答していた。このギャップが、学びの瞬間となった。