デバイスを武器にデータで社会課題を解決する

編集部(以下色文字):2025年11月、2026年度から2030年度までを対象とする中期ロードマップ「Shaping the Future 2030(SF2030)2nd Stage」を発表されました。この中では重点方針として「GEMBA DX企業への転換」を掲げられています。あらゆる現場で使われている自社の製品、デバイスから得られるデータを活かしたビジネスモデルへの変換を目指すとのことですが、長年ものづくりを軸に事業を展開してきたオムロンが、こうした大きな転換を決断されたのはなぜでしょうか。

辻永(つじなが)(以下略):もともと私たちは、製造現場の自動化(FA:ファクトリーオートメーション)を支える制御機器や血圧計をはじめとしたヘルスケア製品など、ハードウェアによって築いた競争力を軸にして、事業を展開してきました。

 しかし、オムロンが取り組むべき社会課題として挙げている「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」については、従来のハードウェアの提供だけでは本質的な解決が難しくなっていると感じていました。そこで作成したのが、2022年度から2030年度までの長期ビジョン「SF2030」です。ここでは従来のビジネスモデルを「モノ+サービス」の組み合わせへと進化させることを目標に掲げています。

 しかし、私が社長に就任した2023年度には、中国経済の成長鈍化やサプライチェーンの混乱などによって収益・成長基盤の課題が露呈し、業績が悪化しました。そのため、2024年4月から2025年9月までは業績の立て直しと中長期的な企業成長に向けた収益・成長基盤の再構築を目指し、構造改革プログラム「NEXT2025」を実行しました。

 構造改革を通じてみずからの足元を見つめ直す中、自分たちの強みについて考え直しました。そこで、あらためて私たちが持つ最大の武器だと再認識したのが「世界中の現場に敷き詰めてきた高シェアのデバイス群」です。さらには、それらのデバイスから得られる「高品質なデータ」、長年さまざまなお客様とともに「現場で蓄積してきた課題解決のノウハウ・知見」という強みがあることも再認識しました。

 この土台を活かし、現場の課題解決に貢献するデータサービスへと昇華させる。そのために、ビジネスモデルを「モノ+サービス」へと進化させる方針を一歩深めたものが、「GEMBA DX企業への転換」です。これが具現化できれば、私たちが解決できる課題の幅が広がると考えています。

 こうした決断の根底には、オムロンが大切にしている「企業は社会の公器」という考えがあります。これを軸とした「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」というミッションは、私自身にとっても非常に大切なもので、すべての実践の拠り所になっています。つまり、社会課題の解決こそが私たちの存在価値であり、GEMBA DXはその信念をオムロンの強みであるハードウェアと技術で具現化する挑戦なのです。

 GEMBA DX企業への転換に向け、辻永社長は「2030年まではデバイス事業の競争力強化に軸足を置く」と宣言しています。データを活用したビジネスモデルへの転換を図るために、なぜデータサービス事業ではなく、まずはデバイス事業に力を入れるのでしょうか。

 結論からお話しすると、デバイス事業の強化が、GEMBA DX企業への転換に向けた起点であり、将来の成長を支える土台だからです。デバイス事業とデータサービス事業はけっして分離されたものではなく、一貫した戦略の上にあります。

 売上げの約45%を占める制御機器事業を例に挙げると、私たちは世界中の工場にセンサやコントローラといった多くの機器(デバイス)を販売しています。お客様である経営者や工場長にお話を伺うと、どなたも「データはたくさんある」とおっしゃいますが、それが本当に課題解決につながる質の高いデータといえるかというと疑問が残ります。継続的かつ統合的に高品質なデータを取得するには、いまあるデバイスやソフトウェアだけでは成立しません。いま一度、現場に実装するデバイスの強化を図り、充実したデータを取得する環境を整える必要があります。