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データ資産を収益につなげる
もしあなたが、1000人以上のミュージシャンに関するアルバム、ファン、ソーシャルメディア、関連グッズのデータ分析を任されたとしたら、どうするだろうか。これは2021年にナラス・イーチャンバディがユニバーサル ミュージック グループ(UMG)に入社した時に直面した課題だ。
UMGにはレディー・ガガやエミネムなどの現役スター、ビートルズのようなレジェンド、そして多数の新進アーティストが所属している。イーチャンバディは同社初の最高グローバルデータアナリティクス責任者として、多様な事業部門やパートナーのために自社情報を利用可能にする方法を見つける必要があった。
そこで彼はチームとともに実店舗、ECサイト、ソーシャルメディア、マーケティング施策、メール、CRM(顧客関係管理)システムからのデータを集約し、それを使ってレポート作成・分析用ツール「FAME」(ファンアナリティクス、マーケティング、ECの意)を構築した。レーベルやアーティストを含むUMGのパートナーが成長機会を探しやすくするものだ。
FAMEを使えば、個々のファンの行動に関する詳細なデータとインサイトが提示され、個別に取るべき次のアクションまで自動で提案される。ほどなく、リスナーのエンゲージメントとマーケティング施策のコンバージョン率(CVR)が大幅に上昇し、ECチャネルの売上げは30%以上の成長を遂げた。新規アーティストやレーベルと契約する際にも、FAMEはUMGに競争優位性をもたらした。
イーチャンバディのチームは、散在していて未整理のままだった社内データを統合して使いやすいツールにまとめることで、アーティストとファンをつなぐという自社の主要ミッションに沿って事業を成長させる方法を見出したのだ。
顧客データ、そしてそこから得られるインサイトを商品化して収益を得るという発想は、新しいものではない。貸し手のために借り手の返済能力を調べる信用調査機関は1世紀以上前から存在するし[注1]、食料品店は数十年にわたってロイヤルティプログラムで収集した購買データを販売してきた[注2]。
デジタル時代において企業は購入商品、訪問サイト、投稿レビューやコメントといったオンライン行動を追跡して消費者理解を深めている。現在ではAIによってそうした情報分析やインサイトの抽出が容易になり、その価値がさらに増している。経済成長が鈍化する時代、企業はこの資産を収益化する方法を見出すことにいっそう関心を持つようになっているのだ。
すでに成功を収めている企業もある。アマゾン・ドットコムでは小売事業が依然として最大の収益源だが、顧客の興味に関する深い知識を活かして広告事業を伸ばし、2024年は560億ドルの収益を挙げた[注3]。さらに最近では、ウォルマートが同様のモデルを使ってオンライン広告事業を立ち上げ、いまや年間40億ドルを生み出している[注4]。リンクトインでは売上高160億ドルの大部分が採用担当者向けに販売するユーザーデータに直接関係している。
マスターカードやビザといった金融サービス会社はコンサルティング部門(マスターカード・アドバイザーズ、ビザ・アドバイザリー・サービス)を設置し、数百万件の取引に関する分析から得られたインサイトを企業に販売している。両社はいずれもこれら新規事業の収益を公表していないが、マスターカードは付加価値サービス部門の年間売上高が2桁で成長していることを示唆している。
一部の企業は、大規模言語モデル(LLM)の訓練に利用する目的で、ユーザーデータを生成AI企業に直販している。2024年にレディットが自社のユーザーデータをオープンAIにライセンス供与した際、財務面の条件は非公開だったが、このニュースを受けてレディットの株価は12%急騰した。こうした話を聞いて、自社データから利益を引き出す最善策を検討する企業が増えているのだ。



