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この人は信頼できると思った
編集部(以下色文字):青木社長は企業経営についてP.F. ドラッカーの著作に影響を受けてきたと聞きました。数ある著作の中でも特に感銘を受けたのは、ドラッカーが29歳の時に出した処女作『「経済人」の終わり』(The End of Economic Man, 1939)だったとか。ビジネスパーソンに絶大な人気を誇る『経営者の条件』や『プロフェッショナルの条件』ではない、初期の重厚な著作を挙げられていたのが目を引きました。どのようなきっかけから、この本を手に取ったのですか。
青木耕平社長(以下略):最初は「一般教養として、ちょっと読んでおくか」という軽い気持ちからでした。
『「経済人」の終わり』はドラッカー思想の原点ともいえる1冊です。第一次大戦後に、全体のためにはこの犠牲を問わない「ファシズム」勃興の原因となった旧体制の失策ぶりを描き、その再発を防ぐには、戦争をも厭わぬ経済至上主義から脱却しなければならないと説いています。特に惹かれたのはどのような点でしたか。
2012~13年頃にたまたま『P.F. ドラッカー 完全ブックガイド』を読んで、この人は企業を繁栄させるための方程式に興味があるわけではないのだな、と。ライフテーマとしてナチズムの再来を避けたいという問題意識があって、そのために産業社会において中間共同体≒企業がそれぞれに機能すれば社会全体が機能し、社会全体が機能すればナチズムの再来みたいなことは起こらないのではないか、という発想なのだと知って、興味が湧きました。
そういう思想の下、企業を機能させるためにマネジメントが重要で、それに付随してイノベーションが重要だ、という順で指摘している。社会思想家がなぜか会社を成功させる方法にたどり着いてしまったところが個人的に好きなポイントで、この人は信用できると感じました。
ドラッカーを評してよく「マネジメントの父」といわれますが、同時に「現代社会最高の哲人」「社会生態学者」とも呼ばれる、そんな思想の幅の広さが青木社長の感性に響いたのかもしれません。
僕は会社というものを「社会内国家」あるいは「自治領」のようなものだと思っています。法人の中でも株式会社が非常によいシステムだと思うのは、すごく自由なところです。法律や公序良俗に則っていれば、どのような資源を調達してどのぐらい儲けるか、どのぐらいの規模にするかということも自由で、儲けた中からきちんと税金を払っていれば自治が許される。
それぞれの自治力が健全で、そこに属する人にとって健やかな場になっていくというのが、現実の世界をおそらく最もよくする方法だ、という感覚をもともと僕も持っていたのです。ビジネスを成功させるために機能する組織をつくるのではなく、機能する組織をつくることで社会全体の発展に寄与できれば、結果としてビジネスはうまくいく、と考えていたので、ドラッカーの考え方にすごく共感しました。
続いて読んだ『産業人の未来』(The Future of Industrial Man, 1942)では、社会や組織が機能するためには、それを構成する人たちに「位置づけ」と「役割」が明示されている状態が極めて重要なのだということを学びました。
クラシコムの組織では実際に、さまざまな仕事を担う役職に必要な役割を「ロール」としてニューアソシエイトからバイスプレジデントまで7階層に分けられているなど、ドラッカーが指摘していた点が反映されている印象です。
構成する個々人が、どういう役職で、どういう責任を負い、どう貢献するか、どのような権限があるのかを明確にして、皆がそれを理解していることで組織が機能する、という考え方ですよね。ドラッカーの多くの著作のすべてを読み込んだわけではないのですが、やっぱりこの『「経済人」の終わり』『産業人の未来』という2冊にいちばん影響を受けたと思います。
株式会社クラシコム代表取締役社長
2006年、実妹である佐藤友子氏(現副社長)とクラシコムを共同創業。同社にて07年よりライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」を運営。「フィットする暮らし、つくろう。」をミッションに、現在ではD2C、コンテンツ制作・配信、企業へのマーケティング支援など、ライフカルチャーにまつわる事業を展開中。2022年に東証グロース市場に上場。(撮影:野中麻実子)
「うまくやるだけの方法」には興味がない
青木さんは30代半ばでクラシコムを立ち上げ、「実践」を通して経営を学んでこられたわけですが、その途上で、ドラッカーの著作から何を吸収したかったのでしょう。
うまく表現できないですけど、僕の場合は「本当のことを知りたい」という思いが強かったですね。たとえば、僕でも解答例を横に置いて東京大学の入試を受けたら合格すると思うんです。つまり、本当のことがわかってしまえば、「やる」こと自体は真面目に取り組めばいいだけだから、常に「本当のことは何なのか」を知りたいわけです。単に「うまくやる方法」というと、「本当ではないことを、うまくやるだけの方法」の場合もあります。うまくやるためだけに、本当ではないことを頑張ることほど無駄すぎることはない。
だから、経営についても、そもそも企業がどういう存在なのか、社会においてどういう力学の中でピース(一片)として埋め込まれているのか。あるいは、何を目指して、どのように取り組んでいくべきか、という真理がわかっていれば、それに逆らわずに取り組めます。結果として、うまくいこうがいくまいが、それに取り組んだ自分の人生に意味があると感じられる方向というものがあるのだ、ということが、ドラッカーの著作を読んで補強されたような感覚でした。
ドラッカーがさまざまな概念を論じている中でも「自由」に対して、青木社長からも特に強いこだわりを感じます。クラシコムの経営方針(マニフェスト)の「自由・平和・希望」でも一番に掲げられていますね。
ドラッカーの「自由とは放縦ではなく、選択の責任である」という言葉は、僕がふわふわと思っていたことを一文でズバッと言ってくれた言葉です。だから、これを知って以来ことあるごとに言っています。
たとえば弊社ではコロナ禍以降、リモートワークが中心ですが、「これは権利じゃないよ」と社内に向けても話しています。委託された仕事を達成するにあたって、どこで働くと最大の成果が上がるのかを自分で決められる「権限」が与えられているのであって、これは福利厚生ではない。自由とは、選択の責任なのだと。
2020年に青木社長が執筆したコーポレートサイトの記事「経営方針を初めて文章にしてみた」には、経営において自由が必要な理由とその実践方法について、先のドラッカーの言葉を引用しながらまとめられていました。「より多くの自由の獲得を目指すのは『ミッション』をより広範に、より効果的に果たすため」であり、ステークホルダーと期待値をすり合わせ、それを超え続けることでより多くの自由を委任してもらえる経営をするんだ、と。
もともと「自由」は西洋哲学の文脈でいえば中心的な課題であって、必ずしも「制約からの解放」とは捉えられていません。まず自由意志があって、それをもとに自分がどう生きていきたいか、どうありたいかという自分の価値観があり、そうあろうとすることは倫理観とセットです。誰に頼まれなくても自身の倫理観に従ってこう生きたいという感覚が、ある種のインテグリティ(真摯さ)ということでもある。それが自由だと思うんですね。(明日4/25公開の記事へ続く)
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