従業員のひそかなAI利用を生産性向上につなげる方法
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サマリー:従業員による生成AIの無許可利用は、管理すべきリスクであると同時に、組織内に眠る需要とイノベーションの兆候でもある。欧州大手銀行のBBVAは、安全な利用環境を迅速に整備し、このエネルギーを全社的な生産性向上へと転換することに成功した。本稿では、その取り組みから得られる教訓を紹介し、AI導入の成功には中央集権的な管理よりも、現場の創意工夫を引き出す仕組みが重要であることを提示する。

従業員の隠れたAI利用はリスクか

 多くの企業の生成AI導入プロジェクトは失敗する。使い勝手が悪く、導入が遅れ、しかも結果はいまひとつだ。同時に、ほとんどの大組織では、隠れた革命が起きている。煩雑な社内ツールやアクセス制限に不満を抱いた従業員が、しばしばIT部門やコンプライアンス部門に知らせずに、チャットGPTやクロードといった個人向けのAIモデルをひそかに使っているのだ。ある大規模な中央銀行の関係者が筆者の一人に語ったところによると、従業員は銀行支給の安全でAI非対応のPCで仕事をしながら、自分のノートPCを開いて、お気に入りの大規模言語モデル(LLM)を使っていることが多い。

 この「シャドーAI経済」はかなりのスケールに及ぶ。ある報告書によると、LLMの正式なサブスクリプション契約をしている企業は4割程度だが、9割以上の企業の従業員が、仕事で日常的に個人向けAIを使っていた。多くの組織では、従業員がLLMを毎日何度も使用しているが、その会社のAI開発イニシアティブは「パイロット段階の停滞」(pilot purgatory)に陥っている。

 ほとんどの企業はこれをリスクと見なし、利用制限や監視やゲートキーピングで対応している。しかし、従業員への不信を基にしたこうした戦略は間違っている。シャドーAI経済は脅威ではなく、組織内に需要と生産性のポテンシャルがあることを示す症状だ。したがって戦略的な対応は、その需要とポテンシャルを自社のために大規模に活用することだ。本稿は、その手引きを示す。例として挙げるのは、25カ国で事業を展開し、従業員約12万5000人、顧客7700万人以上を抱える欧州最大級の銀行BBVAだ。

BBVAの対応の特徴

 BBVAのアプローチは3つの原則に基づいていた。まず、AIは人間に取って代わるものではなく、アシスタントとして扱うこと。第2に、従業員にイノベーションを行う裁量を与えつつ、結果に明確な責任を負わせること。そして第3に、最も重要なのは、社内に「チャンピオン」や専門的な「ウィザード」(名人)のネットワークを構築して、知識を広め、ピアツーピア(P2P)で問題を解決することだ。このアプローチにより、個人の独創性が会社全体の強みになった。

 BBVAは早期に行動を起こした。2024年4月には、オープンAIと合意を結び、チャットGPTエンタープライズを安全なBBVA専用のクラウド環境に導入して全社的に使えるようにした。その戦略的な判断は明快だった。管理の目をくぐってひそかにAIを使うよりも、既存のニーズに沿って管理された安全なソリューションを迅速に導入するほうがリスクは低い、というものだ。これには最高経営幹部の断固たるコミットメントが必要だった。

 BBVAの最高幹部は、リスク評価と法的審査、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)準拠という骨の折れる作業をわずか2カ月に圧縮し、フルタイムで専念できるシニアマネジャーの専任チームを確保し、権限を与え、煩雑な手続きを最小限に抑えた。このような迅速な対応が可能になったのは、BBVAが2017年以降データ領域に大規模な投資を行い、その担当部門はCEO直属という体制を取っていたからだ。

 だが、迅速な対応は最初のステップにすぎなかった。BBVAの対応の特徴は、展開を拡大するに当たり、強制ではなく「誘惑」の哲学を採用した点だ。当初、配布されたチャットGPTエンタープライズのライセンスは、わずか3000だった。それが事業部門のリーダー(「チャンピオン」)に割り当てられ、チームで最も意欲的で献身的なメンバーに配布するよう明確な指示が出された。ライセンスを手に入れるのは、そのチームで職層が最も高い人とは限らなかった。また「使わなければ、権利を失う」という方針が取られ、ライセンスを付与された従業員があまり使わないならば、取り上げられ、より意欲的な同僚に与えられるようにした。

 この仕組みがライセンス希望者を増やすことになった。アクティブユースの定義では、使用頻度だけでなく、貢献度も考慮に入れられた。自分でGPTをカスタマイズし、一連の指示とツールを持つチャットGPTを構築して共有した人が優先された。たちまちライセンスの需要は供給を上回り、エンタープライズツールは義務から特権へと変わった。

 アーキテクチャ面で決定的な選択となったのは、「導入ネットワーク」だった。シャドーAI経済にすでに存在した非公式なピアツーピア学習を正式に取り入れたシステムだ。約25人のチャンピオン(地域および国のトップ)と100人以上の共同チャンピオンが、戦略的な普及と資源配分を担った。

 また、約200人のウィザード(熱意とスキルで選ばれた公認パワーユーザー)がローカルエキスパートの役割を果たし、ピアツーピアのサポートを提供するとともに、価値の高いユースケースを見つけた。彼らを動かしたのは内発的な側面(その役割が好きだから)と、評判に関わる側面(会社が価値が高いと明らかに見なす領域で、リーダーと見なされることの重要性を理解していた)だった。

 この取り組み全体の中核を担ったのは、「実践コミュニティ」だった。これは利用者が知識を共有し、トラブルシューティングをし、別の部門で起きているイノベーションを発見できるダイナミックな水平的プラットフォームだ。このコミュニティは、BBVA史上最も活発なフォーラムになった。

 こうしたネットワーク型アプローチは、イノベーションの責任の所在を根本的にシフトさせた。中央のIT部門や業務部門に頼るのではなく、ビジネスプロセスを最もよく理解している人たちにソリューションの設計を任せたのだ。共有を促す明確なインセンティブがある中、このプロセスはすぐに切磋琢磨の競争を生み出した。世界各地のエキスパートが、さもなければ気づかれずに終わったかもしれないアイデアやベストプラクティスをやり取りした。

 トレーニングも重要だったが、BBVAはその対象者を戦略的に決定した。その背景には、組織改革は経営幹部レベルで停滞しがちであるという認識があった。中間管理職や上級管理職は懐疑的で、リスク回避的で、こうした改革が自分の権力を脅かすことを恐れているかもしれない。そこで、マネジャーたちに改革推進を依頼する前に、BBVAはCEOを含む最高経営幹部250人向けに、参加必須の5時間のワークショップを実施した。これは理論の概要を知る機会ではなく、生成AIが複雑かつ繊細な管理業務を助けてくれること、投資家向けイベントの準備をし、協力者にフィードバックを与えられることを示した。また、マネジャーの日常業務でAIがすぐに助けになることを示すことで、「よくわからないけれど危険なもの」というAIのイメージを、「貴重なアシスタント」へと変え、AI導入の波に呑まれたのではなく、導入のリーダーシップを執っていると感じさせた。

 AI利用者の統制と権限付与のバランスを取るために、中核的な原則に基づきガバナンスシステムが構築された。その原則とは、生成AIは自律的なエージェントではなくアシスタントである、というものだ。アウトプットを自動システムに直接つなげたり、人間の検証なしにコアデータベースを上書きすることは許されない。

 従業員は作業を検証し、その結果に対する責任は担当する従業員が負う。アクセス権を得た従業員は全員トレーニングを受け、試験に合格したうえで、みずからの責任を了承する手続き文書に署名しなければならない。従業員作成GPTは数千件あり、そのリスクを一元管理することは不可能だから、BBVAはイニシアティブを確実に潰してしまっていたであろう正式なリスク承認プロセスの代替として、ガードレールと明快性、具体性、漠然性、そして文脈についてGPTを評価する自動「品質スコア」を開発した。

結果

 このBBVAシステムにより、アクティブユーザーは1年足らずで3000人から1万1000人に増えた。その使用の80%はチャットによる直接的なプロンプト入力であり、残りの20%は従業員が作成したカスタムGPTだった。いまや従業員の83%以上が毎週このシステムを利用しており、週平均50件のプロンプトを入力している。オープンAIによると、これは同程度の企業導入事例を上回る水準だ。ユーザーは週に平均2~5時間の節約になっていると答えている。社内では4800件を超えるカスタムGPTが作成され、それらは企業全体の平均の3倍の頻度で使用されている。

 最も導入が進んだのは内部監査部門だった。ここでは対象者全員にライセンスが付与された。監査プロセスはテキスト分析、データ操作、コードレビューなど、AI支援に向いているタスクが多い。専任の導入ネットワークチームのサポートを受けながら、監査人らはすべてのタスクにAIを組み込んだ。構造化されたGPTは、高品質で一貫性の高い詳細な監査報告を作成し、ダイレクトプロンプトは文書の要約やコードレビューを助ける。世界各地のBBVAの監査人600人の99%がアクティブユーザーとなり、現在では監査人1人当たり週3~4時間の節約になっている。

 同じようなメリットが、地域や機能を超えて見られた。メキシコでは、保険について助言するGPTが支店長4400人の問い合わせ応答時間を92%短縮し、1人当たり週19時間ほどの節約になった。ペルーでは、支店の従業員向けのオペレーションアシスタントによって、サポート時間が74%短縮された。人材獲得のための候補者レポートツールは、レポート(年間3万件になる)作成時間を従来の36分から11分に短縮した。グループ内請求書発行アドバイザーは、社内会計士1200人の返答時間を85%短縮した。いずれの場合も、AIツールを構築したのは中央のITチームではなく、ワークフローを理解している現場の従業員だった。

 導入ネットワークの分散型の知識拡大力は、予期せぬ形でも現れた。たとえば、メキシコのある起業家精神に富んだエンジニアは、感情分析用のGPTを開発し、それを実践コミュニティと共有した。導入ネットワークはワークショップを開催し、ベストプラクティスを共有するとともに、他部門が回答選択式アンケートではなく、自由回答形式のアンケートに変更するのを助け、より充実した内容の顧客インサイトを得ることを可能にした。

あなたの組織が取れる5つの措置

 BBVAの事例は、社内のシャドーAI経済を活用したい組織に5つの具体的な教訓を与えてくれる。

安全な環境を迅速に確保する

 従業員がすでに業務の傍らでAIを使っていると考えるのは合理的だろう。個々のユニットレベルで有用になりそうな用途を調べるのではなく、会社全体のインターフェースを迅速に構築しよう。これにはトップからの強いプッシュが必要だ。さもないと、官僚的なプロセスの監督がスピードを遅らせ、機密データの漏えいリスクが高まる。「秘密裏」に野放しで利用されることは、全社レベルの次善策(それなら改善可能だ)よりも危険だ。

最初からアクセスを魅力的にする

 稀少性が、この目標達成に役立つ。たとえば、ライセンスの割り当てを競争により決定して、アクセスを特権とステータスの象徴にする。そのうえで、個人の使用状況や貢献度に応じて定期的に割り当てをし直そう。

ユニットごとにパワーユーザーを指定する

 ここでは稀少性の要因はツールでなく知識になる。パワーユーザーはベストプラクティスを共有する手段を持つ。彼らは、その発見を拡散させる実践コミュニティも率いる。AIの導入は、コラボレーションが広がり、学習が集団的になされる時、一段と強力になる。

管理職に使い方を熟知させる

 マネジャー自身がAIをうまく使えなければ、他者にAIの利用を説得力を持って勧めることはできない。したがってマネジャーをきちんと訓練しよう。少なくとも、AIの助けを借りて人材管理メモや慎重な配慮を要するコミュニケーション、KPI(重要業績評価指標)レビューの作成方法を学ばせるべきだ。ワークショップは実践的かつ短時間のものにし、抽象的な総論に終始しないこと。

このプロセスは人間に力を与えるものであり、人間に取って代わるものではないことを理解する

 何をするにしても、人間をプロセスに組み込むことを厳格なルールにすること。いつも従業員が仕事の責任を担うべきだ。コアシステムへの直接書き込みは認めないこと。社内GPTには、質の評価とガードレールが必須である。また、範囲とコンテキストの明記、サンプルテストやデータ境界の組み込み、そして常にメンテナンス担当者を定めることが求められる。これはシンプルかつ拡張可能で、非官僚的なプロセスだ。

今後の道のり

 AI経済は、これまでの技術革新とは根本的に異なる。AIは自然言語を使い、参入障壁が低いため、組織の全メンバーが技術的な起業家になれる。BBVAはこのことを早い段階で理解し、大きな社内資産として活用することを決めた。これをうまくやるためには、従業員を信頼し、隠れたイノベーターたちを後押しする必要があった。彼らは、生産性向上への需要とポテンシャルがどこにあるかを正確に示してくれるからだ。

 本稿で紹介したBBVAの取り組みは、似たような措置を取りたい他の企業の有用なモデルとなる。そして何よりも、本稿はある教訓を極めて明確にする。すなわちエンタープライズAIを成功させたければ、まず、一元的な計画を策定するのではなく、社内の人材の独創性を活用することから始めるべきだということだ。

注:BBVAに関する数字はすべて2025年半ばの同社の社内報告書に基づく。時間節約の数字は利用者の自主申告による。


"The Hidden Demand for AI Inside Your Company," HBR.org, April 14, 2026.