デジタル時代に実店舗が果たす新たな3つの役割
HBR Staff Using AI
サマリー:実店舗型小売は衰退しているのではなく、物流、顧客体験、ブランド構築を担う重要な拠点へと進化している。デジタル施策の限界が見え始める中、先進企業は実店舗とオンラインを組み合わせ、新たな競争優位を築いている。本稿では、実店舗の役割がどのように変化しているのか、企業事例を交えながら解説する。

リアル店舗の役割が変化している

 過去7年間は、小売業界の歴史においておそらく最も激動の時代だった。新型コロナウイルスのパンデミック、大きなテクノロジーの進化、関税問題、金利の上昇が、業界における売買のあり方を根底から変えた。しかし、この混乱は同時に、ある現実を浮き彫りにしている。

 2024年のショッピングセンターの空室率は5.4%と、過去20年間で最低の水準を記録した。また、スマートフォンの普及とともに育った若いZ世代(18~24歳)のモールの利用率が最も高くなっている。eコマースやD2Cモデルが実店舗に取って代わるという過去20年間の支配的な見方は、ここにきて停滞しているのだ。米国国勢調査局のデータによれば、2025年の米国の小売売上高に占めるeコマースの割合は16.4%で、これはパンデミック下でロックダウンが最も厳しかった2020年第2四半期の16.3%をわずかに上回る程度だ。さらに、ここ4年間の年間増加率は、2008~2009年の大不況以降で最低の水準に留まっている。

 デジタルチャネルを通じた販売の有効性は低下しつつある。アップルやメタ・プラットフォームズなどによるプライバシー保護の強化は、デジタルの最大の強みだったはずの、広告キャンペーンによるターゲット顧客へのアプローチを困難にした。クリック単価の平均は、過去5年間で推定40~50%上昇している。さらに、たとえ顧客が広告をクリックして商品をカートに入れたとしても、購入率は低い。デジタル上のショッピングカートの約77%が放棄されており、モバイル端末に限ればその割合は80%を超える

 こうした背景から、専門家らの予測とは裏腹に、D2Cからの脱却が始まっている。アイウェアのワービーパーカー、寝具のキャスパー、コスメのグロッシアーといったブランドに続き、インテリアeコマースサイトのウェイフェアも実店舗での展開を開始した。かつて時価総額40億ドルを誇ったD2Cの成功例であるフットウェアブランドのオールバーズが、最近わずか3900万ドルで売却されたことは、このセクターが直面している課題を象徴している。

 これらのデータが示しているのは、実店舗による小売業が衰退したわけではなく、店舗の役割が変化しているという事実だ。アパレル、美容、DIY・住関連用品、事務用品など、さまざまな分野の小売企業経営者7人へのインタビューから、1つのパターンが見えてきた。実店舗は現在、物流ハブ、サービスと体験の拠点、再活性化された需要喚起とブランド構築のエンジンという、互いに補完し合う3つの役割を担っている。

物流ハブとしての店舗

 パンデミック以前から、一部の小売業者は店舗をeコマース注文の実質的な倉庫として活用していた。パンデミック下で店舗閉鎖が余儀なくされると、カーブサイドピックアップなどの店頭受け取りサービスが普及し、こうした取り組みはさらに加速した。その結果、多くの小売業者が、自社の実店舗網は単なるコスト負担や倉庫ではなく、競争優位性であることに気づいた。ブランドがSNSや新しいマーケティング施策に多額の資源を投入しても、小売業の成功を支える基盤が在庫管理とフルフィルメント(受注から顧客の手元に届けるまでの一連の業務)であることに変わりはない。

「フルフィルメントのプロセスは、適切な仕組みがない時に初めてその重要性がわかる」とある経営者は指摘する。パンデミック中にeコマースを優先して多くの小売店との契約を打ち切ったナイキの例を考えてみよう。この決断は、保管・配送コストを卸売業者からナイキ自身へ移すことになり、結果として過剰在庫を招いた。利益率を削りブランドを毀損する大幅な値引きを強いられた同社は、ほどなくして小売店での販売へと回帰した。

 今日、eコマースの注文の3分の2以上が、何らかの形で店舗を経由していると推定される。これには、フルフィルメントの過程で店舗を経由する商品だけでなく、小売業者のウェブサイトやサードパーティ販売業者から購入されて返品された商品も含まれる。返品された商品はその場で検品され、別の拠点や販売先へ振り向けられ、再販に回される。サイズやフィット感の個人差が大きく、返品された商品の状態によっても価値が急速に低下しかねないカテゴリーにおいて、この店舗の仕組みは極めて重要だ。店舗の活用は、廃棄や値引きを最小限に抑えるのに役立つ。あるアパレル企業の経営者が語るように、オンラインで注文されてから店舗で受け取られるまでのタイムラグを利用して、より需要の高い拠点へ在庫を再配置することも可能になる。