AIがもたらす「未来の不透明化」にどう向き合うべきか
HBR Staff/Mike Holford/Unsplash
サマリー:AIの急速な進化により、企業や投資家、個人はこれまで以上に未来を見通しにくくなっている。この不透明さは、長期投資や人材育成、事業戦略の前提を揺るがし、将来を見据えた意思決定を難しくしている。本稿では、AIがもたらす「未来の不透明化」が経済や企業経営に与える影響を整理するとともに、見通しの立ちにくい時代において、個人や企業はいかに意思決定を行い、変化に対応すべきかについて論じる。

世界はこの先どこへ向かうのか

 長期投資の基盤は、特定の未来像に対する確信である。発行体の支払能力を信じているからこそ、30年債を購入する。10年かけて放射線科医になるのは、苦労して得た専門知識に見合った報酬がキャリアを通じて得られると信じているからだ。ソフトウェア企業に投資するのは、その企業が長期的に収益を生み続けると確信しているからだ。

 不確実性は常に存在するが、30年先を見通す自信があれば、高層ビルや鉄道を建設する。数カ月先が見越せるなら、テントを張り、自転車を買う。

 AIの台頭により、私たちは「未来が極めて不透明」と表現するにふさわしい時代に突入した。AIによって変化しうるあらゆる事柄を考えると、霧が降りてきたかのように先が見通せなくなっている。そしていま、それがAIの最も重要な──そしておそらく最も過小評価されている──経済的影響なのである。

 基本的な経済的現実についての不確実性が、いかに増し続けているか考えてみてほしい。アンソロピックCEOのダリオ・アモデイやオープンAIのCEOであるサム・アルトマンは、今後数年のうちに超知能AIシステムが到来すると予測している。迫りつつある「ジョブポカリプス」(職の消滅)や、まさに現在進行形の「SaaSポカリプス」(SaaSの終焉)は、現在の経済状況がいかにAIによる破壊的変化に対して脆弱であるかを露呈している。主要AI企業による新機能のリリースに起因すると考えられる、公開市場における評価額の大幅変動についても同様だ。さらに、物理的なAIの進歩もある。その最たる例は、自動運転車ウェイモの後部座席から過ぎゆく景色を眺めた多くの人々が感じた非現実感であり、SFの世界に足を踏み入れたかのようだ。

 機械知能が最高性能のソフトウェアに組み込まれ、さまざまなロボットシステムに具現化され、ユビキタスになった場合の影響を完全に把握することは不可能だ。AIがソフトウェアエンジニアをほぼ無用にするのか、それとも直感に反してさらに生み出すのか。数年後にロボットはどれほどの能力を持ち、それは雇用市場にどのような意味を持つのか。従来のカスタマーサービスセンターは、本当に役目を終えるのか。

 こうした疑問の一つひとつが、近未来に対する私たちの見通しの限界を露呈しており、この極度の不確実性が、将来を見越した投資を行う際の判断基準に疑問を投げかけている。リーダーたちは、この霧を見つめながら、超高層ビルや鉄道がもたらす将来的な利益と引き換えに、テントや自転車のような一時的な利便性を得たい誘惑に駆られるだろう。

 この先どこへ向かうかを確信を持って予測する能力を持たず、かつ変動の激しい環境下で時期尚早な決断を下すことの危うさを考えれば、未知に対して最適化を図ることが最善のアプローチだと筆者は考える。大手企業の顧問も務める起業学の教授として、極めて不透明な時代における成功は、「オプショナリティ」(選べること)を極めた者、すなわち資本の投入を段階的に行い、みずからのアイデンティティを柔軟に保ち、適応力のある組織システムを構築することができるようになった者のものであると筆者は主張する。

人的資本のジレンマ

 教育について考えてみよう。私たちの多くにとって最大の長期投資である。大学や大学院の学位取得、そして先の見通せるキャリアの階段を上る機会を得るために何年も費やし、かなりの負債も負う。若くて野心がある人は、30年から40年にわたって高収入を得られる、やりがいのある職業に就くために、高い学費を払って医学部に入るかもしれない。あるいは、数十年にわたり損益責任を負う立場としてキャリアを築くために、MBAプログラムに入学し、分析力や経営スキルを磨くかもしれない。これらは、人的資本の長期的価値に対する賭けである。