なぜハンズオンなのか

 僕の限られた経験でいっても、優れた経営者にはハンズオンの人が多い。現実の現場にある現象や現物を自分の眼で見る。問題を自分の手で触って知る。社員や取引先、顧客、株主といったステイクホルダーの前に自ら出る。自らの戦略構想を自分の言葉で直接語りかける。社員や株主へのメッセージは自分で書く。メールが来ればすぐに自分で返事をする。

 柳井正さん(ファーストリテイリング会長兼社長)の著書『一勝九敗』の書評を書く機会があった。書いた原稿が今年のゴールデン・ウィークの最中にリリースされた。「こういう書評を書いたのですが…」とメールすると、(おそらく柳井さんは休暇中だったと思うのだが)1時間で返事が来た。内容についての感想もきっちり添えられていた。

 優れた経営者はなぜハンズオンなのか。理由は単純明快、自分の事業に対してオーナーシップがあるからに違いない。オーナー経営者(会社の所有権をもっている)かどうかの問題ではない。「俺がこの事業をしている!」というメンタリティー、気構えの問題だ。商売が自分事であれば、自分の眼で見て、自分の手で触り、自分の頭で考え、自分の言葉でコミュニケーションしたくなる。当然の成り行きだ。

 むしろ不思議なのはこういう人たち。現場で何が起きているのか関心がなく、現場を自分の眼で見ることもない経営者。戦略づくりを経営企画スタッフに丸投げし、結果の数字を見ているだけの経営者。秘書が書いた原稿を一字一句読むだけのスピーチをする経営者。社員へのメッセージの手紙をスタッフに代筆させる経営者。

 なぜこういう奇妙な経営者が出てくるのか。身も蓋もない話だが、端から経営をやるつもりがないというのが本当のところだろう。経営という「仕事」ではなく、経営者=エラい人というポジションにいるという「状態」、こっちの方が思い入れの対象になっている。商売や経営は他人事のごとし。だとすればハンズオフになるのも当たり前だ。

 それにしても、こういう経営者は何が楽しくて仕事をしているのだろう。意見を聞いてみたい。でも、秘書を通してアポを取るのが大変だろう。スタッフが代筆したコメントが返ってきそうだ。

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