タイミングよく話題をつくり人々の心をつかむ

 2013年2月、ニューオーリンズのメルセデス・ベンツ・スーパードームで開催されていた第47回スーパーボウルの最中、スタジアムの照明が突然落ちた。停電は34分間続いた。テレビ局ではプロデューサーが慌てて対応する中、右往左往する選手たちの映像でその場をしのいだ。家で試合を見ていた数百万人の米国人は、当時一般的になりつつあった行動を取った。ツイッター(現X)を眺め始めたのだ。

 オレオのマーケティングチームは、すぐさま反応した。停電が起きた数分後、フレームの左端から一枚のオレオが顔を出すシンプルな画像をツイートした(図表1「オレオの投稿」を参照)。オレオに当たる柔らかな白いスポットライトは、右側に行くほど薄れて暗くなる。画像には「停電? でも大丈夫」というキャプションと「暗闇(ダーク)でも浸す(ダンク)ことはできます」というタグラインがつけられた(米国ではオレオを牛乳に浸して食べることが多い)。

 この投稿は大きな反響を呼んだ。何千回とシェアされ、スーパーボウルのコマーシャルの中でもひときわ話題になった。アーンドメディア(第三者による非有料広告)のインプレッション数は約5億2500万回にも上ったのである[注1]

 オレオの大胆かつ迅速な投稿は、見事なマーケティング事例として世界中のメディアから絶賛された。ブランドがこれほど素早く、これほどユーモアを持って、いま起きていることにつながる行動を取り、しかもそれがこれほど多くの人の心をつかんだのは初めてのことだった。暗闇に置かれた一枚のクッキーの画像が、ブランドが考えていた限界を塗り替えた。

 このツイートから10年の間に「カルチャーのスピード」、すなわち流行の最先端に合わせて素早くマーケティング施策を立案し、実行する能力は、れっきとした戦略的能力として扱われるようになった。「ファストバタイジング」「リアルタイムマーケティング」「ニュースジャッキング」などと呼ばれる手法だ。

 オレオの投稿は、ソーシャルメディア担当マネジャーが気まぐれにツイートしたものではない。オレオはスーパーボウル専門の「指令センター」を設置し、広告代理店、クリエイティブチーム、経営幹部が集まって、アイデアを思いついたらすぐに承認を得られる体制を築いていた。停電が起きた時、この体制のおかげで、数分以内に投稿を作成してツイートすることができた。

 現在では他の企業も、社内にクリエイティブチームを抱えるだけでなく、AIツールを備え、広告エコシステム全般を用意することで、敏速に動くことができる体制構築と能力向上を目指している。

 ファストバタイジングモデル、すなわちプラットフォームの機能を最大限に活かし、カルチャーに合ったコンテンツを即座につくり出すことで、タイミングよく人々の心をつかむこの手法は、もはや任意の選択肢ではなくなった。ソーシャルメディアによって人々が対話するペースが大きく加速したいま、速さはマーケティングにおいて単なる強みではない。生き残るための必須スキルである。

 拡散力(バイラリティ)が重視される世界では、ブランディングにはゼロサム的な側面がある。みずからチャンスをつかむことができなければ、競争相手がそのチャンスをつかみ、カルチャーと顧客を熟知しているブランドだと見なされる。チャンスを逃せば、話題に上ることもない。