「AIに最適化する」という新たな課題

 2024年、ペルノ・リカールのデジタルおよびデザイン担当責任者のギョクチェン・カラジャは、Z世代の3分の2、ミレニアル世代の半数以上が、商品について調べる際に大規模言語モデル(LLM)を使い始めていると知って驚いた。そういうことならば自社の酒類ブランドについてLLMがどのように言及しているのかを正式に調査する必要があると彼は考えた。

 そこで、デジタルマーケティングエージェンシーのジェリーフィッシュと協力し、主要なAIモデルが自社のブランドについてどのように言及しているかを分析した。結果は愕然とするようなものだった。LLMのデータには不完全なものや不正確なものが多かった。たとえば、ある人気AIモデルは、手頃な価格の量販品であるバランタインのスコッチウイスキーを誤って高級品に分類していた。

 カラジャと彼のチームは、この問題に対処するため、いわゆる「シェア・オブ・モデル」(SoM)をモニターし、改善する取り組みを始めた。これは、AIによってブランドが競合他社と比較してどれほど頻繁に、かつどれほど好意的に表示されるかを示す尺度である。

 カラジャのチームは、自社ブランドのSoMを向上させるため、主要なAIモデルすべてに定期的にプロンプトを入力し、ペルノ・リカールの商品に関する質問を行い、各モデルの回答を分類している。そのうえで、LLMがブランドのメッセージを反映するよう、ウェブサイトや広告コピーをアップデートしている。

 このように反復と調整を辛抱強く続けることによって、ペルノ・リカールのブランドポートフォリオに関するAIモデルの認識を微調整することができた。バランタインもいまでは、LLMによって手頃な価格のスコッチと正しく表示されるようになった。

 ペルノ・リカールの事例は、すべてのブランドが直面する根本的な変化を表している。過去20年、企業は検索エンジンの検索結果上位に自社ブランドを表示させるために、キーワード戦略を最適化してきた。そして今度は「AIに最適化する」という新たな課題に直面している。

 カラジャのチームが気づいたように、すでに多くの消費者が商品について調べたり、価格を比較したりするためにLLMを使っている。経営コンサルティングファームのカーニーが米国の消費者750人を対象として2025年7月に行った調査では、消費者の60%が「今後12カ月以内に、買い物にエージェント型AIを使うようになる」と考えていた。

 主要なAI企業はいずれも、AI利用が主流になることを見越してエージェントの開発を進めている。一例としてオープンAIは、ストライプやペイパルなどの決済サービス事業者、ウォルマートやショッピングプラットフォームのショッピファイなどの小売業者と連携し、チャットGPT内での商品購入支援を進めている。

 これは、カスタマージャーニー全体の自動化に向けた土台づくりである。つまり企業は今後、LLMを基盤としたエージェント型AIが顧客に代わって処理を行い、人の手を介さずに取引が完了する状況の中で、自社ブランドを管理しなければならなくなるのだ。