また、大企業であれば、エントリー数が10万人を超えるケースもあるという。だから、学生が有名企業からめでたく内定を得るためには、競争率が500倍から1000倍のおそろしい競争を勝ち抜かなければならないこともある。東京大学の2012年入試志願者倍率は(前期・後期合計で)4.3倍であり、また、関西で難関と考えられている「宝塚音楽学院(タカラズカ)」でさえも、本年入学の第100期生は23.1倍の競争率だ。これらの数字からしても、大企業の競争率がいかに桁外れであるかがわかるだろう。
なぜ、このような行き過ぎた現象が起こるのか? これまで続いてきた慣行だからというのでは、割り切れないおかしさがあるようにも感じる。それはなぜか?
募集を重視した採用活動
単純化して言えば、企業が採用活動全体を、募集に力を入れたマーケティングの視点で考えてきたからだ。わが国では、企業の一連の採用活動のうちで、応募者のエントリーを集める募集活動と、応募者の中から優秀な人材を選抜していく選考活動を、はっきりと意識して区別することはまずない。募集と選考はいっしょくたになっている。だから、「良い人材を選りすぐることより、良い人材を集めること」に躍起になってしまう。
たとえば、採用活動の問題点について企業に意見を聞けば、「母集団形成」がいつでも上位に挙がってくる。採用活動の成否を判断する基準として、エントリー数を重視しているから、母集団形成という募集面での課題がとくに問題視されるのだ。
新卒の募集は、「リクナビ」「マイナビ」などの就職サイトを通して行われている。デジタル化した募集チャネルを使えば、低廉なコストで、全国から応募者をたくさん集めることができる。求人票貼り出しや学校訪問といった方法で、募集を行っていた時代とは隔世の感があり、ウェブを使えば大規模な母集団を簡単に集められる。母集団を形成するという目的で考えれば、採用情報をウェブで大学生に広く浸透させるマーケティング戦略によって、募集は圧倒的に効率化した(いまでは逆に、エントリー数が多すぎるという非効率も目にするようになったが…)。