採用活動において募集を強調することには、ペイするだけのメリットがある。ウェブで全国から募集された大規模な応募者の中には、母集団が小さいケースと比べれば、優秀な人材もそうでない人材も、どちらも多く含まれているものだ。だから、面接というあまり精度の高くない選抜法を用いても、上澄み層を選り分けることができる。大きな母集団から採用人数を絞って、単に厳選採用していけば、おのずと優秀な層を採ることができるというわけである。

 だんご状になった中間層を選別するのではなく、上澄みを見分けていくのは、彼・彼女たちが飛び抜けているがゆえに、わりかし簡単だ。正確さが高くなくても、便利で割安な面接のような選考方法であっても、見分けがつきやすい。だから企業は、できるだけ大きな母集団を形成し、面接を重視した厳選採用に走ることには合理性がある。

 その反面、面接ではわからない高い仕事能力を秘めた多くの若者を落としてしまい、自信を失わせてしまう。企業の側には悪意はないが、ウェブに頼れば必要以上に多くの応募者が来るから、不必要にたくさんの人材を不合格にしてしまう。募集に力を入れている限りは、多くの人を集め、多くの人を犠牲にするのは必然だ。

募集重視から選考重視へ

 その一方で、募集よりも選考に力を入れる戦略もある。マーケティングではなく、人的資源管理に根っこをもつ選抜重視の考え方だ。丁寧な選考を行っていけば、少ない母集団からでも、必ず優秀な人材を採ることができる。「募集重視から選考重視へ」それが一つのポイントだ。

 募集時期を後ろにずらせば、応募者数が減り、母集団が不足する。募集力の低い中小企業にとっては、頭の痛い問題かもしれない。しかし、小さい母集団からでも、選考の方法を見直せば、決して不利になるわけではない。というのは、大規模な母集団を集めて厳選採用をすることと、小さな母集団からでも、仕事能力に結びついた丁寧な選考を行うことには、同じ効果があるからだ。より興味のある方は、「就職・採用活動におけるマーケティング・モデルからの脱却」(『国民経済雑誌』第202巻第1号,2010年)を参照してほしい。