歌川広重の「おおはしあたけの夕立」を、ファン・ゴッホが模写した絵をご覧になった方も多いだろう。現在では、欧米の一流美術館20館以上に、20万点以上の浮世絵が収蔵されていると考えられる。中には5万点を収蔵するボストン美術館、3万点を収蔵するプーシキン美術館など、万以上の収蔵数を誇る美術館も少なくなく、また、上記以外に無数の個人コレクションも存在している。外国美術品としてこれだけ大量に収集されている美術品は、浮世絵を措いて他にないと言える。

建築や工学もトップクラス

 さらに建築の分野においても、日本人の創造性はトップクラスにある。ドイツの建築家ブルーノ・タウトが来日した際、案内された桂離宮を見て感動のあまり泣いてしまった、というエピソードは有名だし、現代でも多くの日本人建築家はグローバルに引っ張りだこの状態にある。例えば2010年に落成したポンピドーセンター新館は、日本人建築家の坂茂氏の設計である。フランスはジャン・ヌーベルを始めとして、多くのスター建築家を抱える国だ。その様な国における国家的なプロジェクトに、日本人建築家が選ばれて辣腕をふるっているのである。

 最後に、工学エンジニアリングの分野でも日本人の創造性は疑いようがない。古くは剛性低下方式というユニークな設計方式を用い、当時の戦闘機乗りをして「天下一品の操縦性」と言わしめた零式艦上戦闘機や、強力な火力とコンパクトな船体設計を両立させた戦艦大和、近代に目を転じれば世界の風景を激変させたウォークマンや液晶テレビ、世界の交通革命の先駆けとなった東海道新幹線、環境配慮時代の先鞭をつけたプリウス等、日本人の創造性が発揮された工業品は枚挙にいとまがない。

なぜ日本企業発のイノベーションが停滞しているか

 多分野にわたって反証例を列挙させていただいたが、こういった事例が示唆しているのは「日本人が創造性に劣っているとは考えられない、むしろ世界トップレベルにあるはずだ」ということである。しかし、一方で近年において日本企業発の世界的なイノベーションが停滞しているということも、また厳然たる事実である。この矛盾を我々はどのように整理すればいいのだろうか?