AIの使用で人間の「批判的思考力」を低下させない方法
Yaroslav Danylchenko/Stocksy
サマリー:AI活用は効率化をもたらす一方、従業員の専門性や視点の多様性を失わせ、クリティカルシンキングの力を低下させるおそれがある。組織は短期的な利益だけを追わず、人がAIに左右されず主体的に向き合える環境を整える必要がある。本稿では、人間の思考力を高めつつAIを有効活用するための具体的なアプローチや企業事例を紹介する。

人間の思考力を低下させないために

 ほとんどの組織は、ただ指示に従ったり、規則を適用したりするだけに留まらない働きをする従業員の重要性を認識している。クリティカルシンキング(批判的思考)ができる人は問いを投げかけ、前提を疑う。こうした行動は組織の敏捷性とイノベーションに不可欠であることが知られている。しかし、AIの使用によって、この能力が低下する可能性があることを示す証拠が増えている。

 筆者らはこの問題に企業が対処できるよう支援するために、長期的に視点の多様性とクリティカルシンキングを促す形でAIを設計し、導入して活用するための新たなアプローチを提案する。これはマネジメント、認知科学、人間とコンピュータの相互作用に関する既存の研究(筆者ら自身の研究も複数含む)に基づくものである。加えて、組織における仕事とテクノロジーに関する研究、および異なるアプローチを試している企業の幹部らへのインタビューも踏まえている。

 組織は、クリティカルシンキングの能力の低下に関連する2つの主な組織的リスクに焦点を当てる必要がある。専門性の喪失と、認識の多元性の喪失だ。これらのリスクによって、組織は敏捷性と革新性を維持する能力を損なう可能性がある。リーダーは、テクノロジーが中立ではなく、私たちの思考や相互作用のあり方にマイナスの影響を及ぼしうることを認識すべきだ。したがって、短期的な利益(効率化やコスト削減の可能性など)のみに目を奪われてはならない。ユーザーに対し、テクノロジーの機能を当然のものとして受け入れずに、「AIに自分が左右される」のではなく、「自分でAIを方向づける」ために実験するよう促すべきである。

AIは思考にどう影響を及ぼすのか

 生成AIが爆発的に普及する以前から、投資銀行員を対象としたカレン・アンソニーによる2021年のエスノグラフィー研究をはじめ、多くの研究が「ブラックボックス化」についてすでに指摘していた。これは、働く人々が分析ツールを理解しないまま信用することで、プロフェッショナルとしての専門性を失いかねないという現象だ。

 より最近の研究では、AIを使うことで、人々が自分の受け取る情報に疑問を呈する能力が損なわれる可能性が示されており、認知的オフローディング(考える作業を外部に委ねること)、さらには認知的降伏(AIのアウトプットを無批判に受け入れること)への懸念が高まっている。

 LLM(大規模言語モデル)の使用に伴う認知的負担について調べたMITメディアラボの2025年の研究と、AIを第3の認知システムとして導入することの影響に関するペンシルバニア大学ウォートンスクールの2026年の研究はいずれも、AIを使っている人はアウトプットを疑問視したり、調べ直したりすることに消極的であることを示している。認知への長期的影響はまだ確定的ではないものの、これらの研究は、AIの使用が組織の能力に影響を及ぼす明確な兆候を浮き彫りにしている。

 第1に、多くの研究者は、AIの使用が組織における専門知識の「脱文脈化」につながることを懸念している。その主張によれば、AIは事実やデータに容易にアクセスできるものの、知識を状況や文脈に沿って解釈し、有意義な形で適用することはできない。データにはしばしば、直観や感情、あるいは複数の専門領域での実体験を持つ人にしか認識できないニュアンスが含まれている。私たちがデータの中に何らかの事象を見出せるのは、それを直接体験したことがあり、そのデータを理解するための文脈を知っているからだ。AIはアルゴリズムであり、データを直接体験するわけではないため、こうしたニュアンスを見落とす。

 たとえば、AIが司法試験に合格できるからといって、司法制度のあらゆるニュアンス、ステークホルダー、事件ごとに扱われ方がどう異なるのか、その理由、他の専門知識が法律とどう関連するのかを理解していることにはならない。こうした法的専門知識の脱文脈化はリスクを招く。なぜなら、個別の事件とニュアンスに富む司法制度の両方を理解していなければ、AIの専門知識に依存する弁護士は、証拠を誤って解釈し、間違いを犯すおそれがあるからだ。

 実際に最近のある研究は、AIへの依存が進むにつれて、領域専門知識に基づいてAIのアウトプットを検証し、新たな状況に適応し、潜在的な問題への対策を立てることができる人材の重要性が高まるであろうことを示している。また別の懸念として、コスト削減のためにエントリーレベルの職を削減すると、組織が現在頼りにしている文脈理解力を備えた中間管理職の人材層を、近い将来に失うおそれがある。