対話から学ぶ
冒頭の武田信玄の句に加えて、もう一句。「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」と読んだのは、連合艦隊司令長官・山本五十六である。
この句も負けじと、人事専門家の心をくすぐってくる。自らが範を垂れ、実際に部下に経験させ、褒めること。経験から学ぶことの大切さを強調した人材養成の名言である。ただし、この句には続きがあることは、それほど知られていない。「話し合い 耳を傾け 承認し 任せてやらねば 人は育たず」というものだ。対話し傾聴することの大切さが語られている。
対話を通じた学習のあり方を「ダイアローグ」と呼ぶ。人と人が話し合いながら、共に考え、創造的に探究していく伝統は、ソクラテスにまでさかのぼることができる。
ダイアローグを通じた学習がお茶の間に登場したのは、2010年にNHK教育テレビで放映された『ハーバード白熱教室』である。マイケル・サンデル教授は、「正義」というむずかしい課題について、架空の状況や日常生活で経験する問題に置き換えて、学生に質問をぶつける。
さらに、「君ならどうする? 何が正しい行いなのか? その理由は?」と、次々に質問を投げかけ、学生に考えさせ、活発な討議を引き出している。マネっこが次々と現われて、わが国のいくつもの大学で、「白熱教室」が開かれている。
とはいえ、マネするだけでもむずかしい。言葉を使ってストレートに意思を伝えることを控えようとする慎ましい文化に育った私たちは、憶測やお互いの想像に頼る「以心伝心」という無言のコミュニケーションをよしとしてきた。
「自ら問題を発見し、解決する能力」が、学習指導要領で強調されているにもかかわらず、熱心な対話を通じてものごとを解決していくのは、あまり評価されてこなかった。だから、言葉を尽くして論じていくと、周りから「うるさい!」といわれてしまう。