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企業の「物語」を、いかに高付加価値につなげるか
広告宣伝費をほとんど使わず、店舗網の拡大に頼ることなく、2014年に7.7億円だった売上げを、この12年間で242億円と約31倍に伸ばしたブランドがある。北海道・砂川市発の化粧品・フレグランスブランドであるSHIROだ。同社は、「自分たちが毎日使いたいものをつくる」という信条のもと、素材の調達から開発、製造、販売までを自社で担い、1店舗当たり売上げは2016年比で約8倍の約5億円に成長し、店舗数も24店から36店に増えた。マス広告もターゲティング広告も行わないブランドは、なぜ高い価格で選ばれ続けるのか。
SHIROが実現してきたのは、単なる高価格化ではない。素材や製法にこだわった製品の価値を、ブランドの物語や店舗での体験を通じて顧客が実感できるものにし、それを持続的な成長へとつなげてきた。
本稿では、連載第1回で提示した高付加価値=(物語×体験×世界観)×希少性という方程式を手掛かりに、SHIROのブランド戦略を読み解く。今回着目するのは、ものづくりの背景から生まれる「物語」である。素材の選び方、製品のつくり方、売り方、そして創業の地との関係まで、SHIROは自社の一つひとつの選択を、顧客が理解し共感できる物語へと変えてきた。事業経営を統括する代表取締役社長・福永敬弘氏に、その経営戦略とブランド戦略の実装について話を聞いた。
売るためのコストを、価値をつくるためのコストへ
SHIROが一貫して掲げてきたのは、「自分たちが毎日使いたいものをつくる」という考え方である。生産者の顔が見える自然素材を選び、その力をできる限り引き出した製品を、よけいなものを加えずにつくる。SHIROの物語は、日本らしい素材を使っているという表面的な説明ではなく、自分たちが本当に使いたいと思えるものを、正直につくるというものづくりの姿勢に根差している。
その原点には、化粧品業界の常識への違和感があった。同社は北海道の農産加工品やハーブ雑貨の製造から出発し、延べ120を超えるブランドの製品をOEM(受託製造)メーカーとして手がけてきた。その経験を通じて見えてきたのが、製品そのものよりも、広告宣伝や販売に多くのコストが配分される化粧品業界の構造だった。
福永氏が語る業界の内実は、生々しい。店頭価格1000円の化粧品の場合、販売するブランド側の原価は資材を含めて平均2割程度だという。そこからブランド側の利益を確保すると、実際に中身の製造に充てられるのは130〜140円、店頭価格の13〜14%ほどで製品をつくることになる。「極端な話、水とたいして変わらないようなものですから」と福永氏は話す。
こうした構造を象徴するのが「訴求処方」という業界用語だ。「ヒアルロン酸配合」と謳うためだけに、実際の効果には寄与しないほどの一滴を落とす。売るための成分表示であって、肌のための処方ではない。「そういうものづくりに辟易として、自分たちでやるようになったんです」
だからSHIROの製品哲学は、この業界構造へのアンチテーゼとして設計されている。化粧品の成分表示は、含有量の多い順に並ぶ。SHIROのゆずの化粧水は、水よりもゆずエキスのほうが多い。有効成分を最大限に入れ、よけいなものを加えない。当然、製品は「高原価」になる。その原価に一定のロジックで販売価格を設定するから、一般的な製品よりも価格は高くなる。一方で、SHIROは広告宣伝費をほとんど使わない。そのぶんを主原料や製品開発に回すことで、「手が出ない金額にはならない」という。
多くの企業が原価を圧縮して広告に投じるのに対し、SHIROは広告を削ってプロダクトに投じる。よいプロダクトだから口コミでファンがつき、広告宣伝をしなくても自然にリピートが増えて利益率が上がってくる。
広告によって価値を演出するのではなく、製品そのものに価値をつくり込む。付加価値を生み出すための原資をどこに置くかという問いに対する、業界の常識とは真逆の解を出しているのだ。
製品そのものが、顧客との接点をつくり出す
広告に頼らないという方針は、理念からだけではなく、苦い実体験から生まれている。福永氏が入社した2014年、新製品の発表会を開いた際、PRエージェンシーの提案で、当時人気だったブロガー10人にPR記事を執筆してもらった。だが、合計約100万円かけたものの3日後に4人が削除していた。「『こう書いてくれ』とお願いするのではなく、書きたくなったり話題にしたくなったりするブランドにならないと未来はない。そう思って、広告費を使うのを一切やめました」
以来、SHIROは製品そのもので顧客接点をつくってきた。同社は年間約150SKUもの新製品を出す。新製品を出せば、SNSで発信でき、プレスリリースを出せる。売り場の見せ方も変わる。「それが結局、広告宣伝なんです。お客様は製品にお金を払うのであって、広告宣伝にお金を払ってくれるわけではない」。
SHIROが貫いてきたのは、マーケットインではなく、徹底したプロダクトアウトの姿勢である。市場で売れているものから逆算するのではなく、自分たちがつくりたいもの、自分たちが最も得意なものづくりそのものにリソースを集中し、製品を生み出すのだ。





