地政学リスクを数値化し、経営判断に活かす方法
Illustration by Mandy Tsou
サマリー:地政学的な混乱が常態化する中、企業にはリスクを警戒するだけでなく、事業への影響を数値化することが求められる。企業価値、地政学的距離、ショックを緩和する深刻度の調整から「危険にさらされている価値」を算出すれば、優先順位を定め具体的な戦略へとつなげられる。本稿では、マッキンゼーが開発した算式をもとに、リスクを国や機能ごとに評価し、不安を具体的な行動と競争優位へ変えるための実践ステップを紹介する。

地政学的リスクの算出方法

 2つの企業。1つの地政学的局面。2つの大きく異なる結果。

 2022年にロシアがウクライナに侵攻した後、ノルウェーの石油最大手エクイノールは、欧州諸国が非ロシア産ガスを確保しようと奔走する姿にビジネスチャンスを見出し、迅速に動いた結果、同年だけで売上高が6割以上伸びた。一方、米国のある大手半導体企業には、そうした先見性がなかったため、輸出許可の取り消しを予見できず、収益見通しに大きな打撃を受けた。

 この違いを生んだのは準備だった。具体的には、自社の地政学的リスクを数値化していたかどうかだ。

 ほとんどの企業は、この計算をしていない。筆者らは多国籍企業のCEO15人以上への聞き取り調査で、経営者は地政学的リスクを警戒しているが、それにどう対処すべきかわからずにいることを発見した。これらの経営者の62%が米中貿易摩擦を自社ビジネスにとって重大な脅威だと考えていたが、その潜在的なインパクトを数値化していた経営者は29%しかいなかった。

 基礎的な対応、つまり状況を注視し、タスクフォースを立ち上げ、状況が安定化するのを待つことは理解できる。しかし、状況が安定化することはない。地政学的な混乱は、もはや経営環境の波乱の要因ではなく、経営環境そのものなのだ。

 そこに欠けているのは、リーダーが危険にさらされている価値を把握するための算式だ。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、次のような算式を開発した。

 各項目とも慎重な分析が必要だ。

 企業価値の大きさは、特定の地域と結びついた事業活動の総価値を指す。組織の収益や資産(オフィス、生産施設、知的財産など)、および事業上の依存関係(サプライヤーに依存する収益や製品の価値など)の合計だ。