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「自社が提供する価値」と「顧客が認識する価値」の乖離
多くのB2B企業は、ある盲点によって長年損をしてきた。その盲点とは、企業が顧客のために生み出している価値と、顧客が認識し、測定し、社内で正当化できている価値との乖離である。初期の急速な成長期には気づかないが、やがて売上げが鈍化したり、競争相手の出現によって利益率が圧迫されたりして問題が表面化する。この乖離を埋めるには経営判断を要するが、多くの経営チームが明確に下してこなかった判断でもある。
筆者らは、ヘルスケア、金融、製造、テクノロジーのB2B企業に対して20年以上にわたり、Go-to-Market戦略を支援してきた。その中で、企業がポテンシャルを最大限に発揮できるかどうかは、自社の提供する事業価値について顧客と共通認識を築けているかどうかに最も左右されると考えている。筆者らはこれを「顧客事業価値」と呼んでいる。この理解が欠けている状態、つまり顧客がメリットは感じていても、その価値を測定あるいはCFOや最高技術責任者(CTO)、その他の主要関係者に説明できない状態を、筆者らは「バリューギャップ」と呼んでいる。その結果どうなるかは、知られている通りだ。契約更新が進まず、価格圧力が強まり、戦略案件を失注する。この侵食は緩やかなため、気づいた時にはかなり進行しているのだ。
2013年、Splunk(スプランク)にも成長率に隠れたバリューギャップがあり、筆者らはそれを間近で見ていた。筆者の一人であるワイズは価格戦略について経営陣に助言しており、同じく筆者であるメイは当時Splunkの社員として、営業部門が技術訴求から価値訴求へ移行するのを支援していた。
当時Splunkは売上高約2億ドル、毎年50%以上の成長率で拡大していた。各社のITチームがそれまで解決に莫大な時間がかかっていたか、解決不能だったIT運用上の問題を対処するために、無料版を積極的に導入したことが成長を牽引していた。ユーザー企業のIT運用チームは、Splunkは複雑な問題を迅速に解決できると絶賛していた。ユースケースが増えるにつれ、利用量も増え、同時にITコストも増えた。外部から見れば、テクノロジー企業の類稀な成功物語だった。利用者は製品を気に入り、成長が鈍る気配もなかった。
しかしSplunk社内では、経営陣がある兆候に気づき、懸念し始めていた。業界の有力者や、顧客企業の最高情報責任者(CIO)たちが、ウォール街のアナリストに対して「価格が高すぎる」と語っていたのだ。ウォール街は、同じ顧客の会話の中に支持と価格への不満の両方を認め、従量課金によって広範な導入が妨げられることを懸念していた。買い手はコストを予測できず、大規模な導入に踏み切れなかった。
その年の1月、経営陣は筆者ら2人を招き、この問題をそれぞれの視点から検討させた。筆者らがSplunkユーザーに話を聞くと、彼らは製品を気に入っており、IT運用だけでなくセキュリティ、さらにはマーケティングやカスタマーサクセスでも新しい活用方法を見つけ続けていた。しかし同時に、企業全体にとっての価値を説明できないという課題、そしてビジビリティ(可視性)の問題もあった。利用者は日々のメリットを感じていたが、予算を握るCIOやCFOにはそれが見えていなかった。購買部門の誰も、Splunkがもたらしている利益を定量化できず、そのため全社導入のコストを見積もること、ましてや正当化することができなかった。
こうしたパターンは、Splunkに固有のものではない。ベンダーと顧客企業の間で顧客価値に対する理解が欠けている時は、ベンダー内部で、そもそも顧客事業価値の重要性について共通認識が築かれていないことがよくある。そうなると機能不全は必然だ。この共通理解と注力すべき視点が欠けていれば、営業チームは機能や特徴を中心にデモやPoV(価値検証)を組み立て、カスタマーサクセスチームは社内の効率化や最適化を実施してしまう。その結果、顧客満足、リスク低減、成長、収益性といった外向きの顧客事業価値は取りこぼされ、伝わらないままである。製品チームは提供予定の機能に集中し、マーケティングメッセージは別の機能や運用上のメリットに偏る。このような顧客との、そして組織内での不整合があると、売上げは予測しづらくなり、価格圧力が強まり、顧客の数は拡大するどころか最悪の場合は離脱して別のソリューションに乗り換えてしまう。
こうした集中と組織の足並みの統一は自然には起こらない。経営陣による意思決定が必要だ。Splunkは、経営陣の主導に始まり、その後、営業、マーケティング、カスタマーサクセス、製品開発など顧客接点を持つすべての部門へと広がる、数年にわたる変革によってバリューギャップを埋めた。Splunkの経営陣は、顧客事業価値の理解と提供に焦点を当てた文化を築いたのだ。メイの在任中、主に彼の視点から見て、成約率は上がり、営業サイクルは短縮され、顧客拡大が加速した。2013年以降の6年間で、同社の売上げは10倍以上に成長し、23億ドルに達した。2024年にはCiscoが同社を280億ドルで買収した。
バリューギャップはこれまでも代償を伴ってきたが、変わったのは、その代償が効き始める速さだ。機能上の優位性はかつては何年も持続したが、いまでは数カ月で陳腐化する。AIをはじめとするテクノロジー関連投資では、企業の精査は厳しさを増しており、更新判断は明確な事業インパクトに結びついている。最も影響を受けやすいのは、顧客が予算を握る経営層に対してビジネスケースを示せない企業だ。その能力を築くための時間は、2年前よりもはるかに短くなっている。
いかに顧客価値によって持続可能な優位性を築くか
筆者らはこれまでの経験から、企業は顧客価値のビジョンを構築し、組織全体に組み込むべきだと考えている。顧客の事業価値を理解し、定量化し、実務に落とし込む努力をする企業は、模倣しにくい持続的な競争優位を築ける可能性が高い。顧客が何を価値とし、その価値をどう高め続けられるかに対する好奇心と学習の文化を育てることは、企業、顧客、社員すべてに成長の循環を生む。筆者らの経験では、その取り組みは、理解、証明、実装、そして拡大の手順で進む。
顧客事業価値を深く理解する
顧客価値に集中する取り組みは、組織のどこからでも始められる。重要なのは、専任の小さなチームをつくり、ソリューションが顧客にどう使われているか、あるいは使われる予定か、それがリスク低減、売上成長、コスト削減にどうつながっているかを把握させることだ。これにより、想定していなかったユースケースが見つかったり、顧客セグメントごとの差が大きいことがわかったり、価値がどこで生まれるのかが明らかになったりする可能性がある。
この作業はアンケートではできない。また、顧客に「貴社にとって何が重要か」と聞くだけでも不十分だ。社会科学者、経済学者、製品利用分析者の視点で取り組む必要がある。まず、顧客に最も近い営業、カスタマーサクセス、製品リーダーからインプットと洞察を集める。成功、失敗、課題、そして多様なユースケースを把握する。







