部下が「スキルは高いが、器が未成熟」な場合、どう育てればよいのか:成人発達理論で考える
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サマリー:現代のビジネス環境では、「スキルは高いが、器が未熟」という人材が生まれやすくなっている。これは、オンライン講座などの普及により効率的なスキル習得が可能になった一方、スピードを求められる社会の中で、「器」を育むための時間や余白が失われているためだ。今回は、これからのリーダーにとって欠かせない、器と能力がアンバランスな部下への対処法を成人発達理論に基づいて解説するとともに、リーダー自身の成長についても言及する。

連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』こちら

部下の「器と能力のアンバランス」にどう対応するか

 組織で起こる人材育成の難しさの大半は、「器」(人格的な度量)と「能力」(実務スキル)のアンバランスによって生じます。人は誰しも両方の側面を持っていますが、その発達速度は同じではありません。現代のビジネス環境では特に、「スキルは高いが器が未熟」という状態が目立つ傾向にあります。理由の一つは、現代社会の構造そのものにあります。スキルは学びやすい環境が整っている一方で、器が育つための時間や余白が失われているのです。

 スキルは書籍や研修、オンライン講座によって短期間で習得できます。市場もスキル評価を重視します。そのため、能力は効率的に伸ばされ、若くして高い成果を上げる人も増えています。しかし、器の成熟には「内省」「葛藤」「対話」「時間」という、現代人が最も不足している要素が必要です。刺激にあふれ、スピードを求められる現代社会では、落ち着いて内側と向き合う時間が極端に少なくなっています。結果として、専門スキルは非常に高いものの、感情調整が苦手だったり、他者視点が持てなかったり、自己防衛が強く出たりといった「器の未成熟」が表面化します。

 一方、「器は大きいがスキルが不足」している人も一定数は存在します。人間味があり、関係性をつくる力が高く、チームに安心感をもたらすタイプです。しかし、専門スキルの習得が追いつかず、業務で十分に力を発揮できないことがあります。ここで理解すべきは、スキルは「無限に存在する」ということです。どれだけ能力があっても、すべての領域でスキルを完璧に身につけることは不可能です。むしろ、誰もが何かしらのスキル不足を抱えたまま働いているといえます。

 スキルのアンバランスは、個人だけで背負う問題ではありません。組織は「スキルを持ち寄って補い合う場所」であり、一人ひとりが違う強みと弱みを持っているからこそ、チームとして成立しています。スキルの全部を一人で背負う必要はなく、自然なアンバランスを前提とした協働こそが組織の本質です。

 拙著『「人の器」の磨き方』でも述べていますが、現代は「器の未成熟が目立つ時代」であり、同時に「スキルの多様化が進み、誰もが何かしらのスキル不足を抱える時代」です。この2つの潮流が重なると、組織はさまざまな摩擦や行き違いを生みます。だからこそ「器と能力のアンバランスをどのように扱うか」は、これからのリーダーにとって必須のテーマなのです。

アンバランスが組織にもたらすリスクとは何か

「器」と「能力」にアンバランスが生じた時、その影響は個人に留まらず、組織全体に波及していきます。特に、スキルは高いものの器が未熟なメンバーがチームにいる場合、短期的にはチームの成果が上がる一方で、中長期的には深刻な摩擦が生まれる可能性があります。

 なぜなら、器が未成熟な人は感情コントロールが難しく、他者の意図を誤解しやすく、視点が固定されがちなためです。その結果、周囲と衝突するだけでなく、強すぎる自己主張や防衛的な振る舞いをして、チームに分断を起こすといった現象が起こります。成果は出しているのに、なぜかチームの雰囲気が悪い。その裏には「器のアンバランス」が潜んでいます。

 もう一つのリスクは「優秀だが扱いづらい人」が生まれることです。このタイプは、能力が高いため組織が手放しにくいものの、器の成長が追いついていないため、リーダーや同僚との不和が絶えない場合があります。こうした状況はチームの心理的安全性を損ない、優秀なメンバーが静かに離れていく原因にもなります。スキル偏重の評価制度の下では、こうした人が組織への影響力を持ち、文化がゆがむことすらあります。

 一方、器は大きいがスキル不足のメンバーが多い場合、別のリスクが生まれます。人間関係の質は高く、チームの雰囲気はよいものの、業務遂行力が低く、成果が安定しにくくなるのです。優しさや協調性はありますが、専門スキルが不足しているため、タスクに時間がかかったり、責任範囲を越える仕事に対応できなかったりします。メンバーが過剰に助け合いに依存し、負荷が一部の人に集中するケースも少なくありません。