ダイエットか麻薬か
ずいぶん長くなったのでそろそろこの話も終わりにしたい。前々回、経営破綻と離婚は似ているという話をした。そのココロは「どちらもクセになる」ということだ。
アメリカの航空会社のように、破綻ノウハウの手練手管で「ちょっとダイエットに……」とばかりにやたらとチャプター11を連発するのもどうかと思うが、そうなると政府の方もそれに合わせてスレてくるわけで、公平な競争環境の維持のために、それなりに法制度や対処ノウハウも洗練されてくる。
たとえば、EUの公的支援についてのガイドラインである。「経営不振企業の市場での淘汰は必然であり、経営破綻に対する公的支援の制度化は絶対に容認されない」という原理原則が明示されており、公的資金投入による企業再生はそもそも競合他社の犠牲を伴うものだ、ということが強調されている。
短期的な救済資金については、再生計画の提出が求められ、自力で経営している企業と比較して好条件とならない金利が設定される。長期的な再建資金についても、競争環境のゆがみを抑制するために、生産能力、市場シェアの削減、不当廉売の禁止などの補償措置がある。一度支援を受ければ、その後10年間にわたって追加支援は受けられない。
ダイエットや離婚であればクセになっても一定の歯止めがある。それなりの苦痛が伴うからだ。ところが、日本航空に対する公的資金の投入は、ダイエットどころか、麻薬を打ち込むようなものだ。「焼け太り」がミエミエの過剰救済であれば、それ自体が「快楽」になる。こんなことがクセになってしまえば、それこそ社会にとって悲惨なことになる。
日本経済が成熟する中で、今後も企業の経営破綻は増えるだろう。競争がある以上倒産は必要悪だ。新陳代謝という観点からすれば、退場すべき企業がずるずると残っている方が問題が大きい。これからの日本にとって、経営破綻への社会的な対処がますます重要になることは間違いない。日本航空に対する公的支援と債権放棄の同時実施、これを反面教師として記憶にとどめておきたい。
再生を果たした日本航空は、(言うまでもないことだが)麻薬は1回で打ち止めにして、今後は正々堂々と競争し、伝統あるサービス企業として価値創造の王道を歩んでほしい。縮小する国内市場にあって、航空業界はインバウンドの消費を呼び込む基盤として重要な役割を担っている。日本と日本の納税者への鶴の恩返しを期待したい。