プロクター・アンド・ギャンブルから発売されているプロバイオティクス健康補助食品〈アライン〉(Align)に、一般消費財ドラッグ部門でエジソン賞の金賞が授与された(訳注:プロバイオティクスとは人体に良い影響を与える乳酸菌など微生物を活用したもの)。この機会に、多くのイノベーターの教訓となるアライン開発物語を再び紹介したい。

 実は私は、今からさかのぼる2004年にアライン開発チームと知り合った。彼らは毎日の服用によって過敏性腸症候群(IBS)の症状を緩和するような、プロバイオティクス製品の開発に取り組んでいた。アメリカ国内だけでも3000万人以上が過敏性腸症候群だという。そしてその対処法は、症状に合わせて生活習慣を改善することぐらいしかない。

 その製品開発には、あふれんばかりの破壊的な飛躍の可能性が秘められていた。過敏性腸症候群は、適切な対処法がない差し迫った問題だ。消費者の求めに応える、まったく新しい製品カテゴリーを生みだす可能性がある。その製品は独自の知的財産に基づくものであり、また治験結果では、多くの人が改善効果があったと報告していた。

 そして当然ながら、その開発プロジェクトは、まさに開発中止に追い込まれようとしていた。

 この食い違いは、どういうことだろうか。当初の市場予測では、この製品の事業機会は相対的に小さなものとされていた。新たなブランドを立ち上げるには金がかかる。また当時、開発チームは技術的な問題点をまだ解決できていなかった。重い投資負担、高いリスク、低いリターンのプロジェクトは、本社が承認するようなものではない。

 だが、ナンシー・マッカーシー率いるチームは、辛抱強く、このプロジェクトをやり遂げた。我々はチームと一緒にシナリオ分析を行い、新製品の本格的な発売に向けて立証すべき仮説を明らかにした。経営陣は、それらの仮説を詳しく調査するために、少しだけ予算をつけてくれた。そこでアライン開発チームは、まずインターネットで製品をひっそりと発売した。そして広告にもたいしてお金を使わず、むしろ既存のドラッグストア向けの販売部隊を活用して、ごく少数の都市だけで販売した。

 次にP&Gは、ウォルグリーン・ドットコムのような大手サイトを通じてのオンライン販売へと進んだ。そしてついに昨年のはじめに、アラインは全米での販売へと至った。

 この一連のプロセスからは、重要な洞察がいくつか得られた。アライン・チームは、通常のサプリメントのように容器に錠剤をそのままたくさん詰めて販売するのではなく、顧客が毎日服用するのを忘れないように、1週間分ごとに個包装した錠剤薬品のようなパッケージを開発した。またブランド戦略も変更した。発売当初は、「メタムシルのメーカーが新開発」とパッケージに謳っていたが(訳注:メタムシルは便通促進の健康補助食品)、現在ではアラインだけで単独のブランドとしている。

 2008年にCTO(最高技術責任者)のブルース・ブラウンは、フォーブスに掲載された記事で、私にこう語った。「アライン・チームは、少しずつ学びながら、無理な先行投資をすることなく、市場に近づいていった」。私と会って話したことがある人ならば、インテュイットを創業したスコット・クックの含蓄ある言葉を私が好んで引用することを知っているだろう。「我々が犯してきた失敗の背後には、いつも一見素晴らしく見えるスプレッドシートがある」。素晴らしい表計算と素晴らしい事業を混同してはならない、というのがその教訓だ。同じように、ぱっとしない市場予測を見て判断するだけでは、健全なビジネスチャンスを見逃してしまう可能性もある。

 イノベーションを成功させるには、投資の意思決定をする前に、予測数値をよく吟味しなければならない。その数字の背後にある仮説を追求し、簡単であまり費用のかからない方法を見つけ、できるだけ実際の市場に近い状態でその仮説を検証してみよう。


原文:How P&G Quietly Launched a Disruptive Innovation May 11, 2010