業績評価の指標を誤ると、インセンティブが成果に直結しない。企業価値の向上に向けた正しい指標とはなにか。指標づくりの4つのステップを紹介する。

 

 業績評価に関して言えば、企業幹部はまるで昔の野球スカウトのようだ。非常に長い間ビジネスにかかわっているため、統計データが最も役立つ場面においても、直感を働かせるようになったのだ。しかし、マイケル・ルイスが『マネー・ボール』(邦訳2006年、武田ランダムハウスジャパン)で書いているように、オークランド・アスレチックスは、プレーヤーを選抜するためにチームのスカウトが利用していた測定基準が、プレーヤーの得点力とは無関係であることを発見した。つまり、スカウトたちは間違ったポイントを測定していたことになり、企業幹部もこれと同じ過ちを犯している恐れがあるのだ。

 業績を追跡・報告する際に企業が最も頻繁に活用する統計データとして、売上高や1株当たり利益の成長率といった財務指標が用いられる。しかしこうした指標は、株主価値の創造という目的に対しては、十分な説得力を持たない。企業幹部がこうした指標に固執する理由には、自らの直感を過信していること、出来事の因果関係を誤解していること、そして現状から抜け出せずにいることが挙げられる。

 有益な統計データは2つの特徴を持つ。第一に、持続性があること。すなわち、ある時点における行動の結果が、のちの別時点における同じ行動の結果と同様になる。第二に、予測的であること。つまり、行動と測定結果の因果関係が明確である。

 適切な統計データ――すなわち企業価値を決定づける因果関係を理解、追跡、管理するための指標――を選択するプロセスは、4つのステップからなる。ここでは、ミシガン大学のベンギー・ナガーとスタンフォード大学のマドハブ・ラジャンが115行の銀行を対象に行った分析に基づき、架空のリテールバンクを例に挙げ、このプロセスをわかりやすく説明していこう。差し当たり、現在利用している指標や、ウオール街のアナリストや銀行家が勧める指標は脇に置き、白紙の状態に戻って4つのステップを順番に見ていこう。