ブランドを市場に打ち出そうとする場合、競争の基盤となるものは2つある。1つ目は「ブランド選好」に基づいて競争すること。つまり、類似のブランドXやYやZではなく、Aを選んでもらうよう買い手を説得するのだ。これはすでに確立されたカテゴリーで行われる競争で、厳しく果てしない戦いとなる。2つ目は「ブランド・レレバンス」に基づいて競争すること(アーカー著『カテゴリー・イノベーション―ブランド・レレバンスで戦わずして勝つ』2011年、日本経済新聞出版社に詳しい) 。これは、自社製品との比較において、競合他社の製品が「イレレバント(無関係)」に思われるようなものを提供することだ。これこそが大ヒットブランドの取る道筋であり、マーケターが成長と収益を獲得できる唯一の方法である。

 ブランド選好を基にした競争は、常に「ウチのブランドのほうが、よそのブランドよりもよい」と説得し続けるもので、最もよく用いられている手法だ。このアプローチを取るブランド戦略では、提供する製品の魅力や信頼性、価格などを、常に少しずつ強化し続ける。それによって、買い手が馴染みのブランドについて考えを変えることを願うのだ。より速くであれ、より安くであれ、よりよくであれ、「新しく、進化した」が合言葉となる。さらに多くの経営資源をマーケティング上のコミュニケーションにも注ぎ込み、競合他社よりも巧みな広告、インパクトのあるプロモーション、目立つスポンサーシップ、面白いソーシャルメディアのプログラムなどを展開し、買い手を引き寄せようとする。

 問題は、段階的にイノベーションやマーケティングへの投資を行っても市場シェアがほとんど変化しないことだ。顧客は確立されたブランドへのロイヤルティを変えたいとは思わないし、そうする動機もない。機能の提供という面ではどのブランドもあまり変わりはないと顧客は考えており、その認識はたいてい正しい。マーケティングのプログラムで他を抜きんでることは少ない。結果として、ブランド選好の戦略は、他社を追いかけ、利幅を縮めるもので、最後にはイレレバンスに屈することとなる。あまり面白いものではない。

 一方で、クライスラーが1983年に〈プリムス・ボイジャー〉と〈ダッジ・キャラバン〉を発売したときのことを考えてみよう。ミニバンという新しいコンセプトに魅力を感じた大勢の顧客は、購入に際してクライスラーの車とフォードやGMの車の比較は行わなかった。後者の車は購買の意思決定において「イレレバント」だったのである。クライスラーは新たなカテゴリーを創造し、そこに存在するのは同社だけだった。そのため、既存顧客が購入の意思決定を行う方法や、彼らが過去の経験に学ぶ方法も変わった。つまり同社はブランド・レレバンスを基に競争したのである。

 同じことがアップルの〈iPod〉にも言える。また、エンタープライズ・レンタカーや、シーベル・システムズ、セールスフォース・ドットコム、ドライヤーズの〈スロー・チャーンド・アイスクリーム〉、ホールフーズ・マーケット、ザッポス、チャールズ・シュワブの〈ワンソース〉、P&Gの〈ミスタークリーン・マジック・イレイサー〉、ウェスティンホテルの〈ヘブンリー・ベッド〉など、他の数百のブランドも同様だ。すべてのカテゴリーには独自の分野をつくり出したイノベーターの物語があり、何年も、ときには何十年も、真の競合がいない状態で過ごせるのである。

 ブランド・レレバンス戦略をとる企業には何が求められるだろうか。第1に、大幅かつ変革的なイノベーションへの取り組みだ。それは、市場や顧客の生活の変化を感じとることからスタートする。さらに、新しいコンセプトにこだわり、それを市場に売り出すという不屈の精神も必要となる。第2に、「新たなブランドをつくる」という考え方から、「新たなカテゴリーやサブカテゴリーをつくる」という考え方へのシフトだ。そして第3に、類似製品に対する参入障壁を築くことだ。当然のことながら、すべての企業が、安心できる従来の市場からすすんで外に出ていこうとするわけではないだろう。

 しかし、そうしようとする企業は、競合ブランドがまったく目に入らないような新たなカテゴリーやサブカテゴリーを築くチャンスを手にする。その結果、かなりの期間にわたり競争がまったく存在しない、あるいは競争が弱い市場で事業を行える可能性が生まれる。そうした市場で事業を行えば、利益は巨大になる。これは経済学の初歩である。クライスラーには16年ものあいだ、実質的な競合が存在しなかった。その理由は、同社がイノベーションを継続したことだけではなく、他社がほかの事業を優先したからだ。クライスラーのミニバンの初年度の売上げは20万台に及び、今日までに合計1250万台を販売している。

 ブランド選好の戦いから退き、代わりにブランド・レレバンスで勝利するにはより多くの想像力が必要だ。それでも、たいていは実行可能だ。とくにサブカテゴリーにおいてはそうである。そして常に利益が出る。また、絶対的に面白い。


原文:Make Your Competition Irrelevant April 7, 2011