ブランドを市場に打ち出そうとする場合、競争の基盤となるものは2つある。1つ目は「ブランド選好」に基づいて競争すること。つまり、類似のブランドXやYやZではなく、Aを選んでもらうよう買い手を説得するのだ。これはすでに確立されたカテゴリーで行われる競争で、厳しく果てしない戦いとなる。2つ目は「ブランド・レレバンス」に基づいて競争すること(アーカー著『カテゴリー・イノベーション―ブランド・レレバンスで戦わずして勝つ』2011年、日本経済新聞出版社に詳しい) 。これは、自社製品との比較において、競合他社の製品が「イレレバント(無関係)」に思われるようなものを提供することだ。これこそが大ヒットブランドの取る道筋であり、マーケターが成長と収益を獲得できる唯一の方法である。

 ブランド選好を基にした競争は、常に「ウチのブランドのほうが、よそのブランドよりもよい」と説得し続けるもので、最もよく用いられている手法だ。このアプローチを取るブランド戦略では、提供する製品の魅力や信頼性、価格などを、常に少しずつ強化し続ける。それによって、買い手が馴染みのブランドについて考えを変えることを願うのだ。より速くであれ、より安くであれ、よりよくであれ、「新しく、進化した」が合言葉となる。さらに多くの経営資源をマーケティング上のコミュニケーションにも注ぎ込み、競合他社よりも巧みな広告、インパクトのあるプロモーション、目立つスポンサーシップ、面白いソーシャルメディアのプログラムなどを展開し、買い手を引き寄せようとする。

 問題は、段階的にイノベーションやマーケティングへの投資を行っても市場シェアがほとんど変化しないことだ。顧客は確立されたブランドへのロイヤルティを変えたいとは思わないし、そうする動機もない。機能の提供という面ではどのブランドもあまり変わりはないと顧客は考えており、その認識はたいてい正しい。マーケティングのプログラムで他を抜きんでることは少ない。結果として、ブランド選好の戦略は、他社を追いかけ、利幅を縮めるもので、最後にはイレレバンスに屈することとなる。あまり面白いものではない。