ネット事業と既存事業の連携がeビジネスを成功させる

 ドットコム企業と既存企業の境界は急速に消えつつある。ニュー・エコノミー時代に覇者となるための条件は、「クリック・アンド・モルタル戦略」──ネット事業と既存事業(リアル)を併存させる戦略──を成功させることだ。多くの企業がこの点に注目し始めている。

 だが、いざ具体策を詰めようとすると、「ネット事業と既存事業を統合すべきか、分離させておくべきか」という、避けては通れない難題に突き当たってしまう。

 ネットとリアルの統合戦略には、販売促進面での協力、情報の共有化、購買面での交渉力の増大、流通の経済性など、明らかにメリットがある。それにもかかわらず、多くの経営者が「既存事業と分離しておかなければ、ネット事業は立ち行かない」と考えている。The Innovator's Dilemma(邦訳『イノベーションのジレンマ』翔泳社)の著者であるクレイトン・クリステンセンの忠告を真に受けて、次のような既存事業の体質がネット事業の足を引っ張ると思い込んでいるのだ。

(1)既存顧客に執着する

(2)共食いを恐れる

(3)概して近視眼的である

 この考え方に沿ってネット戦略を展開したのが、バーンズ・アンド・ノーブル(以下B&N)である。B&Nは、アマゾン・ドットコムに対抗しようとして、B&Nドットコムを事業部として立ち上げ、やがて子会社として分離した。

 この子会社は、親会社から離れることで多くのものを手に入れた。意思決定のスピードや柔軟性、起業家精神あふれる組織文化、優秀な経営者とマネジャーたち──。資金が潤沢に集まってくるのも、eビジネス分野のスタートアップ企業ならではの「特権」である。それにもかかわらず、B&Nドットコムの業績はどうにもパッとしなかった。

 2000年1月、CEO(最高経営責任者)のジョナサン・バルクリーが就任後わずか1年で辞任した。2月には、株価が7.5ドルまで下落して、最安値を更新してしまう。公開価格の18ドルと比べると、半値以下である。