最高マーケティング責任者(CMO)にとって課題となるのは、国や製品や機能ごとに組織が縦割りとなっている状況のなかで、どのようにして効率的かつ優れたマーケティングやブランド構築を行うかということだ。この問題を研究するため、私は40人以上のCMOにインタビューし、縦割り組織の問題を解決するのに効果のある方法を尋ねた。そして、その結果を『シナジー・マーケティング』(邦訳2009年、ダイヤモンド社)という書籍にまとめた。

 調査でわかったことのひとつは、もはや分断された縦割り組織は単に存続できないということだ。そうした組織は、組織横断型のマーケティングや製品・サービスの提供が行えない。また、異なる製品間・市場間でのブランドの一貫性の維持や、組織全体としてのマーケティング資源の配分も阻まれる。さらに、ソーシャルメディアやイベントなどを手がける、マーケティング・センターの開発もできない。

 驚くべき発見となったのは、この問題の解決方法が――危機的な状況を除いて――中央集権化や標準化ではなかったことだ。中央集権化や標準化は、むしろ無益な努力につながり挫折してしまう。解決方法とは、縦割り組織間の競争と孤立を、協調とコミュニケーションに置き換えることだ。

 では、何をすればそれを実現できるのだろうか。どうすれば駒を前に進められるのか。以下に5つの提案を示す。

1. CMOチームの役割を、「ファシリテーター」または「コンサルタント」、あるいは「サービス提供者」と定義する

 まとめ役や意思決定者とはしない(少なくとも、危機的な状況にない場合は)。CMOがこうした威圧的でない立場をとることにより、組織的なストレスを避け、挫折するのも避けられる。そのなかで、協調とコミュニケーションのプロセスや文化を築くという長い道のりを進むことができ、その結果、縦割り組織に起因する多くの問題を解決することができる。

 ネスレのCMOグループはファシリテーターとして、優れた事例を集めるセンターとなった。テーマはヒスパニック系市場、母親と子供、ウォルマートなどで、それを縦割り組織間で共有した。ビザ(VISA)のCMOグループはコンサルタントとなり、各国を担当する組織に対して、追跡調査の解釈方法やその結果への対処法をアドバイスした。サービス提供者となったBPのCMOグループは、セグメンテーション研究で頼りになる情報源となり、初期段階での貢献は明らかに有用で影響力のあるものだった。こうした役割を果たすことにより、CMOは縦割り組織の幹部会に無理やり加わるのではなく、戦略会議にも招かれるようになる。また、縦割り組織どうしを戦略的・戦術的に結びつけるチャンスにもつながる。

2. チームを活用する

 シェブロンはグローバル・ブランドチームを活用した。このチームは、国や製品ごとの組織を代表する現場のトップで構成されていた。彼らの任務は、統一的なブランド・ポートフォリオやブランド管理システムに向けてのプロセスを進めることだった。ファルマシアには、各地域組織を代表するグローバルチームがあった。このチームはマーケティングを世界的に連携させ、新製品開発についての調整を行うために集まった。P&Gは主なカテゴリーごとにカテゴリー・マネジメントチームを設けている。ブランドや国や地域を超え、また製品開発や製造などの組織機能を超えて事業を管理するのがその目的だ。

 こうしたチームは縦割り組織の問題を解決し、シナジーを生むチャンスを開拓するだけではない。縦割り組織どうしを結ぶ関係や、開かれたコミュニケーションをもつくりだす。実際、チーム・ビルディングが主要な目的にもなりうる。シーゲイト・テクノロジー(ハードディスク・ドライブのメーカー)は10年以上にもわたり、「エコ・ステージ」という究極のチーム・ビルディングの機会を設けている。200名のシーゲイトの従業員がニュージーランドの南島に集まり、1週間のあいだチーム・ビルディングを行うのである。

3. 縦割り組織を結ぶプログラムを開発する

 具体的には、市場で関心を持たれるコンセプトやプログラムを、縦割り組織を超えて開発するのである。これを通じて組織間の協調やコミュニケーションを生みだす。マスターカードはサッカーのワールドカップのスポンサー活動にあたるため、特別チームを複数つくっている。これにより各縦割り組織に対する見方を変え、相互の交流を図る。パンパースのベビーケア、タイドのファブリック・アドバイザー、エイボンのがん撲滅ウォークなど縦割り組織どうしを結ぶプログラムは、組織間の壁を破る効果がある。