人がどのような時に自分の体験を他人に話したくなるか。ソーシャルメディアの原点ともいえる、口コミの研究は50年前に行われていた。そこでの知見は、いまのネット社会にそのまま応用できる。
約50年前、モチベーション研究の父であるアーネスト・ディヒターは、口コミについて大規模な調査を行った。そこからは、ブランドと事業を構築するうえでソーシャルメディアをどのように使うべきか、その秘密が見えてくる。この研究は1966年にハーバード・ビジネス・レビューで発表された。
今日でも大きな意味を持つディヒターによる研究で、第1の発見といえるのは、人がブランドについて他者に伝える動機として4つの点が示されたことだ。第1の動機(全体の約33%)は製品に関連している。その製品から得られた経験がいままでにないもので、かつ非常に喜ばしいものだったので、他者と共有せずにはいられない、というもの。第2の動機(約24%)は自我に関連している。知識や意見を披露すると注目を集められたり、見る目があることを示せたり、先を行っているように感じたりする。また内部情報を得たり、自分の判断を認めてもらったり、優越感を得られたりもする。第3の動機(約20%)は他者に関連したものだ。友好関係や思いやりや友情などを示すために、他者に手を差し伸べたり助けたりしたいという思いである。第4の動機(約20%)はメッセージに関するものだ。非常に面白い、あるいは有益なメッセージだったので、他者と共有してもよいと思うことである。
ブランド構築におけるソーシャルメディアの役割を見てみると、これら4つの動機は、ブランドがソーシャルメディアの活用に成功する条件を説明しているように思われる。飛びぬけて楽しいメッセージを出せるのでない限り、ブランドは特別に優れた機能的ベネフィットか、自己表現的なベネフィット、あるいは社会的なベネフィットをソーシャルメディアで提供する必要がある。これが実現できるのは、真に顧客の心に響く形で、製品・サービスを革新し差別化できているブランドだろう。確立したカテゴリーやサブカテゴリーで他社の真似のような製品を提供していたのでは、こうしたことは起こりにくい。したがって、この議論はイノベーションや差別化の創造という問題に戻ってくる。
ディヒターの研究における第2の発見は、口コミ情報の聞き手は2つの点に関心を持っているということだ。1つは、その製品に関する話し手の経験やバックグラウンドが納得のいくものか、話し手は信頼できるのかという点だ。話し手が専門家であればそれに越したことはないが、必ずしもそうである必要はない。その製品に関する経験に基づいて強い関心を持っていたり、関係する情報や人物にアクセスできたりする人であれば信頼される。もう1つは、聞き手は話し手の動機を疑っているという点だ。聞き手は、話し手が歪んだ気持ちを持たずに、聞き手自身とその幸せに関心を持って欲しいと思っている。この話をしている意図は、私に何かを売りたいからなのか、あるいは助けたいからなのか、と考える。ここから得られる教訓は、自社ブランドを宣伝している企業は、自らの立場を意識し、意見ではなく事実を強調し、適切な文化と価値観を示してバランスの取れた見解を持つ必要があるということだ。
もう1つ得られる教訓は、企業は対話を促進すべきだということだ。なぜなら、聞き手は交流が続いている人の判断をより受け入れる傾向があるからだ。対話を行えば、そのなかで専門知識やテーマについての関心、そして歪んでいない動機をより簡単に伝えることができる。対話を通じて関係を構築し、信頼できると示す合図を送れるからだ。反対に、1度きりで一方通行のコミュニケーションでは、信頼性と動機を示すのはずっと難しいだろう。
ディヒターの第3の発見は、推薦者は購入に関して強大な影響力を持つということだ。製品によっては80%もの影響力があるという。社会学者のカッツとラザースフェルドは著書『パーソナル・インフルエンス』(邦訳1965年、培風館)で、ディヒターよりも早い時期に、社会的影響力のインパクトには2段階の流れがあることを示した。ディヒターの研究はこの考え方を購入の意思決定に適用した。
ほぼ忘れ去られた50年以上前の口コミとその影響に関する研究が、今日でも意味を持つというのは驚きである。
“Secrets of Social Media Revealed 50 Years Ago,” HBR.org, June 17, 2011.