いまやブランド選好を高めるだけで競争優位は築けない。ブランド・レレバンスにより、他のブランドを「イレレバンス」(無関係)にしなければならないのだ。ここでは、ハイアットとコロンビアスポーツウェアの事例からその実践例を紹介する。

 真の成長を実現する唯一の方法は、私が「ブランド・レレバンス」と呼ぶ戦略に取り組むことだ。イノベーションを用いて、競合が「イレレバント(無関係)」となるような新たなカテゴリーやサブカテゴリーを創造し、さらに障壁を築いて競合を締め出すのである。別の選択肢としては、「ブランド選好」に基づいて戦う戦略がある。イノベーションと高価なマーケティングを少しずつ行い、「ウチのブランドのほうが、よそのブランドよりもよい」とする戦略だが、これでは市場は何も変わらない。市場には惰性がありすぎるからだ。顧客は単純に、習慣となっているブランドの購入を変えようという動機を持っていない。たとえ、それを促すための優れたマーケティング・プログラムを目の前にしても、である。

 ほぼすべての業界で、市場シェアに意味のある変化が起きるのは、あるブランドが新たなカテゴリーやサブカテゴリーを創造して、ゲームのルールを変える(ビジネスの既存の進め方を一変させる)ときだけだ。たとえば、エンタープライズ・レンタカーは、空港で車を借りるのではなく、修理中の車の代替が必要な人たちにフォーカスし、サブカテゴリーを創造した。もうひとつの例はセールスフォース・ドットコムだ。クラウド・コンピューティングのソフトウエアを提供している。

 ほかに、既存の市場からサブカテゴリーを切りだそうとしている企業には、ハイアットとコロンビアスポーツウェアがある。

 ハイアットは〈ハイアット・ハウス〉というコンセプトで、新たな長期滞在のサブカテゴリーをつくり出そうとしている。これは旅行者に「家」にいるような体験を提供しようというものだ。大型のソーシャル・エリアには中央ラウンジがあり、休息できる椅子や「Hバー」が置かれている。Hバーでは朝食やカクテルが供され、人々が集まる場となる。ガラスで囲われたゲーム・ルームには、ホーム・シアターが設置されている。裏庭には炉があり、そこも社交の場となる。スイートルームには、少し変わったアイランド・キッチンのような「マルチタスク・アイランド」があって、そこでは料理ができるだけでなく、テレビも見られるし自分のラップトップPCも使える。ハイアットのような比較的小規模なプレーヤーが革新を起こすのは珍しいことではない。大規模な企業は成功の呪いに苦しみ、リスクを取りたがらない。

 コロンビア傘下のスポーツウェアのブランドとして、従来のコロンビアスポーツウェアには価値を重視したイメージがあり、若者ユーザーとの関係は薄かった。これを革新的なブランドに変え、ユニークな提案をして、評価され選ばれるよう性能を高めていった。〈オムニヒート〉の製品ラインには、ボタンを押すと発熱するものがある。〈マウンテンハードウェア〉ブランドでは、軽量の山岳用品をアスリート向けにデザインされたものに変えた。〈モントレイル〉の靴のシリーズは用途別に販売され、ユーザーはウェブサイトで使用目的を基にさまざまなタイプの靴を比較できる。冬用の靴の〈ソレル〉シリーズでは、ウェブサイト上のビデオを通じて、ファッション志向の若い女性に訴求している。

 以上の2社の動きは、新たなサブカテゴリーの創造という点で成功するだろうか。ゲームのルールを変えることになるだろうか。その答えは、次の3つの点にかかっている。第1に、価値のあるセグメントにおいて、「不可欠なもの」をつくっているか。本当に意味のある製品か。第2に、約束を果たせるか。そのために必要な能力、経営資源、達成に向けての意志はあるか。第3に、競合に対する障壁は築けるか。そのために、製品を強化し、イノベーションを継続し、カテゴリーを支配し、イノベーションをブランド化し、並はずれた実行策を展開するなどの手法がとれるか。

 当然ながら、不確実な要素やリスクはあるだろう。だが、上に伸びる可能性は戦略的に非常に大きいので、ゲームのルール変更に取り組まないのは、悲劇以外の何物でもない。一般的に、企業は「ブランド選好」の戦略にお金をかけ過ぎ、「ブランド・レレバンス」の戦略には使わなさすぎるのである。


原文:The Game Changer: The Source of Real Growth October 4, 2011