データ・サイエンティストがいなくても、企業はやっていけるのか
2013年2月号に掲載された「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない」の著者、トーマス・ダベンポートによる補論。人材の必要性から、その育成の重要性を強調する。
ハーバード・ビジネス・レビュー2012年10月号(米国版)には、ビッグデータや分析論についての素晴らしい論文がいくつか掲載されている。ここに私も、世界初のデータ・サイエンティストのひとりとして活躍するD・J・パティルと共同執筆させていただき、非常に光栄である(邦訳「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2013年2月号)。実際この論文は、データ・サイエンティストについて書いたものだ。ビッグデータを十分に活用するためにはデータ・サイエンティストが最も重要なリソースとなる、というのが私の主張である。ビッグデータを管理するツールに関して、テクノロジー関連の記事では〈ハドゥープ〉(Hadoop:幅広く使われている分散処理ソフト)が大いにもてはやされている。これらのツールは実際にすばらしいものであると同時に、(a)幅広く利用されており、(b)大半が無料で提供されている。しかし、データ・サイエンティストについては、このどちらも当てはまらない。また、もうひとつ必要なリソースである大量のデータも、近頃ではネットワーク上の至る所に存在する。たとえば、顧客がインターネットを利用していれば、ビッグデータは存在するのだ。
簡単に言えば、データ・サイエンティストなしで、ビッグデータを処理することはほぼ不可能である。彼らは、混沌とした大量の小さなデータを分析に適した素材へと変換する魔術師である。最初に混沌から秩序を生み出したのは神かもしれないが、データ・サイエンティストもまた、それより規模は小さいが、同じことをしているのだ。つまり、サーバーログや通信会社の請求書ファイル、あるいは機関車のオルタネーターからデータを吸い上げ、情報を解読するのである。データ・サイエンティストは、顧客に提供する新製品やサービスを生み出す。また、生身の人間――上級幹部やプロダクト・マネジャー、CTO(最高技術責任者)、CIO(最高情報責任者)たちのインターフェース役をも務める、必要な人材なのだ。
しかし、ここで火急の問題となるのが次の点である。「いま、従業員として、データ・サイエンティストを雇うべきだろうか?」。現在、データ・サイエンティストが不足しているのは確かだ。彼らを採用しようと試みている企業に聞いてみるとよい。また、経験のあるデータ・サイエンティストが受けている待遇から判断すると、彼らは自分たちの希少性に気づいているようだ。インタビューの中で、あるデータ・サイエンティストは次のように本音を語っている。「私たちは目の上のこぶのような存在です。常にマネジャーたちに対し、データが良くない、興味深いデータではない、と指摘し続けるわけですから。それに、企業の経営方法に満足することはありません。大量のストックオプションを要求しては、6カ月後には会社を辞めるのです」。
今後2〜3年の間に、データ・サイエンティストの採用はかなり容易になるだろう。ハーバード、バークレー、スタンフォード、コロンビア、ノースカロライナ州立大などをはじめとするさまざまな大学で、データ・サイエンスのコースが開講され、学位プログラムも始まりつつある(進展を意味するのかどうかわからないが、バークレーでは3つのプログラムが開講するという話だ)。また、データ・サイエンスサービスを提供するコンサルティング企業も多い。アクセンチュア、デロイト、IBMといった分析サービスを提供する大手企業はこぞってこの分野に力を入れ、またさまざまな専門企業も設立されている。さらに、最大手のミューシグマをはじめとする、海外の大手サービス提供業者もこのビッグデータをめぐるゲームに加わりつつある。
企業のビッグデータ分野におけるリーダーシップを確立したければ――私はそうすることをお勧めするが――データ・サイエンティスト採用競争に加わる以外、他に道はない。しかし、まず試しにそうしたサービスを使ってみたいと思うのであれば、コンサルタントを活用することから始めてもよいだろう。いずれにしても、当面は、データ・サイエンスを学ぶことのできる学校へ社内の人材を通わせてみてはどうだろうか。
原文:Can You Live Without a Data Scientist? September 26, 2012
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