モバイル・コンピューティングの進化とクラウド・コンピューティングの登場により、収集できるデータ量は飛躍的に増大した。こうした膨大な情報が蓄積されることで企業や経営、そして社会にはどんなインパクトがもたらされるのだろうか。ITと経営に関する研究の第一人者である國領二郎教授は、データや情報がつながり続けるようになったことで、社会の可視性が高まり、相手の情報が見えない「匿名」の経済から双方の情報がわかる「顕名」の経済へ転換しつつあると言う。こうした経済社会でカギとなるのは「信頼」である。信頼できない相手にはだれも自分の情報を預けたくないからだ。企業が信頼の基盤を築くことは、これからの重要な競争優位となると指摘する。

データが大量に集まる時代

編集部(以下色文字):この20年を振り返ると、古くはBPRやCALS、近年ではクラウドなど、ITと経営について、さまざまなコンセプトや手法が登場してきました。そしてまた近年、大量で多様なデータを蓄積・処理・分析する技術、さらにはこれらのデータ分析を経営に活かす概念としてビッグデータが注目を集めています。

國領(以下略):この10年ほどでモバイル・コンピューティングが進み、いつでもどこでもデバイスにつながる状態がつくり出されたおかげで、データを取得できる場所や機会が増えました。さらに有線でつながれたセンサーの普及もあります。携帯電話のGPS機能、〈Suica〉や〈Pasmo〉などのICカード、最近では、カーナビも通信とつながって膨大なデータを提供しています。