本日発売の本誌DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは、ビッグデータの特集をしました。言わずもがなですが、ビッグデータはここ数年、IT業界を中心に大きなトピックとなっております。マネジメント誌である本誌では、技術的な側面からではなく、経営に及ぼす影響を中心に特集を組み立てました。
昨年から取材をしていて感じたのは、ビッグデータの使いこなしが、競争優位に直結するということです。新しいIT技術が出ると「経営が変わる」と、毎回のように喧伝されてきました。しかしその実態の多くが、IT 化による業務効率の改善であったと思われます。もちろん、そのなかには劇的な改善につながる技術もありました。しかし、今回のビッグデータがもたらすインパクトは、従来のような業務効率化ではなく、意思決定の質を変えるツールになりうるという点だと思います。
意思決定の問題は、デジタル技術の応用とは無関係に、経営における大きな課題です。それは、長年の経験から裏打ちされた選択、あるいは特異な個人による直観によるものが一方で存在します。もう一方は、ファクトベースの意思決定です。ライフネット生命の出口治明社長の言葉をお借りするなら、前者が国語的意思決定であるのに対し、後者は算数的意思決定と言えましょう。出口さんは、常々意思決定において国語から算数の発想をと主張されておられます。かように、社会の多くの局面で、経験や勘に頼った意思決定が多々見られ、ファクトベースの意思決定が主役になることは稀でした。
従来から課題とされていたファクトベースの意思決定に対し、ビッグデータはこれまでの言い訳を無にするでしょう。定量的なデータはもちろん、定性的データも収集し分析できる技術が開発されてきました。消費者の何気ない無意識の行動やきまぐれな行動もデータ化できます。このような中で従来の経験や勘以上の意思決定は十分に可能になるでしょう。別の言い方をすれば、経験の浅い企業でもデータ分析の使い方次第で、実績を上げてきた企業と意思決定の質では互角の勝負ができるということです。
ビッグデータの進展で改めて浮き彫りになったのは、企業の意思決定、とりわけ、ファクトベースの意思決定です。このIT技術がきっかけとなり、日常の業務からファクトベース、論理的な意思決定が企業に根づけば、これこそ経営改革につながるに違いありません。
今号では、HBRからの論文の他、日本オリジナルの論文やインタビューも多数掲載しております。是非お読みいただければ幸いです。(編集長・岩佐文夫)