イノベーターは用心深くなければならない。次の変革がどこから興るか。それは、思わぬ辺境からはじまることも多いのだ。そのため次の大変革をさぐるには、自社から遠い周縁部分にも目を向けることだ。

 

 先日私は北京で、ある企業のオフサイト・ミーティングのファシリテーターを務めた。その企業は中国では何の事業も行っていないし、行う計画もなかった。また堅実で真面目な企業であり、お遊びの視察旅行に来たわけでもなかった。では、北京で彼らは何をしていたのだろうか。自社が属する業界の周縁部に身を置き、賢く時間を過ごしていたのだ。

 市場トップのリーダー企業が直面する課題のひとつに、「業界を変えてしまうような大変革のトレンドは、気づいたときにはもう手遅れ」という問題がある。大きな転換は通常、自社とは関係がないように見える業界で始まる。あるいは自社とはまったく異なる顧客セグメントを対象とした製品やサービスとして発売される。

 この大変革の波を早期にとらえるには、ウォートンスクールのジョージ・デイ教授と、長年にわたりマッキンゼー・アンド・カンパニーで活躍した(現在はイノサイトの取締役である)リチャード・フォスターの2人の意見に従う必要がある。自社の業界の周縁での体験が必要である、ということだ。

「周縁部分にいる顧客」から、調査を始めよう。MITのエリック・フォン・ヒッペル教授は、彼が「リード・ユーザー」と呼ぶ顧客と十分に時間を過ごすことを長年提唱している。そのような最先端を行くユーザーたちは、イノベーションの洞察を得るための貴重な情報源となることが多い。彼らは自身が抱える独特のニーズを満たすために、斬新なソリューションを寄せ集め活用する。若年層は、体に染みついた行動を捨て去る必要がないため、新しい技術製品を手に取る最初の顧客となることが多い。同じように、極端な制約条件に縛られている顧客について考察してみるとよい。たとえば数年前、我々は浄水事業のビジネスチャンスを検討していた企業を手伝って、(過酷な条件下にある)イラク駐留兵士が編み出した浄水の方法を詳細に調査したことがある。

「周縁部分にいる企業」も調査しよう。自社の事業領域に将来参入してくる可能性があって、ユニークなベンチャー企業や既存企業に目を向ける。従来の業界区分にとらわれてはならない。ますます収斂し、そして重なり合う今日の市場の状況を踏まえると、あなたの業界を激変させるような企業は別の業界から現れる確率が高い。自社が解決している顧客の問題と同じような問題を解決している企業を、詳しく調べよう。その企業がそうした問題を自社とは違うやり方で解決していたり、あるいは自社とはまったく別の顧客グループを対象としている場合、特に要注意である。

 このような周縁部で、大変革の初期の兆候を見逃さないように注意深く観察する。今までのリーダー企業にとってあまり魅力的でないようなビジネスモデルによって、顧客が抱える重大な悩みをより簡単に解決できるようなソリューションが提供されたならば、それは明確な兆候である。大変革は最初は何事もないかのように見える。どんな展開があれば、変化のスピードが加速することになるのか考えよう。

 周縁部に目を向けることは、大変革を早く察知するのに役立つだけでなく、経営者たちにイノベーションと成長を追求する新たなマインドを持たせることにもなる。私のクライアント企業は、さまざまなベンチャー企業や歴史ある企業へ訪問を重ねた。ただし、競争の激しくない業界において破壊的イノベーションを生む企業(たとえばサプライヤー)には目を向けなかったが。こうした企業を訪問し、経営陣はさまざまな洞察を得て戻ってきた。現金が底を尽いてしまうという恐怖から、信じられないほどの創造性を発揮したベンチャー企業を見た者もいた。別の者は中堅規模の若い企業を視察し、営業スタッフの興味深い態度に気づいた。彼は社内には平等の文化があると自慢する一方で、「それについては上司が話すべきです」と発言した。また幾人かの経営陣は、視察先の経営者がイノベーションにいかに深く関与しているかを述べた。視察から戻ったほぼ全員が、顧客への徹底的な注力について熱く語った。

 こうした類の洞察は、業界の展示会で普通の見込み客と会話をすることでは得られない。来るべき大変革に備えてしっかりと準備をするために、周縁部分に目を向け、耳を傾け、出かけてみよう。


原文:Trend Hunting on the Periphery June 30, 2011