先週の記事では、製品を作って売らなければビジネスがなりたたないウエアメーカーなのに、パタゴニアが「自己矛盾なのではないか」と悩みつつ、「Don't Buy This Jacket」と広告を打った話を紹介しました。パタゴニアにとって、こういう悩みに直面したのはこれが初めてのことではありません。
パタゴニアの元となったのは、シュイナード・イクイップメントというロッククライミングの道具を製造・販売する会社でした。当初、一番の稼ぎ頭となったのはピトン。ピトンとは、岩に打ち込んで支点として使うものです。シュイナード・イクイップメントのピトンは丈夫な鋼鉄製で、抜いて再利用できるため高い人気を博しました。でも、多くの人が使うようになると、そのせいで岩壁が傷むようになります。ハンマーでたたいて岩に打ち込んだり岩から抜いたりするからです。大黒柱のピトン販売をやめれば事業に大打撃が発生します。でも、ピトンの販売を続ければ人気ルートが荒れて登れなくなり、最終的にはピトンの販売にもマイナスとなるはずです。だから、悩んだ末、シュイナード・イクイップメントは、「ピトンを使うのはよくない」と訴えてピトンの販売を停止し、チョックという代替品に切り替えました。
このようにパタゴニアでは、「長い目で見たときどうなるのか」を考えます。コットンを通常品からオーガニック製品に切り替えたときもそうでした。
きっかけは、新店舗のスタッフが頭痛を訴えたこと。換気装置に不具合があり、コットンの仕上げ材から発生したホルムアルデヒドが店舗内に充満してしまったのです。普通なら換気装置を改修しておしまいにするはずですが、パタゴニアは、ホルムアルデヒドの危険性(発がん性が疑われている)や原綿の栽培方法に関する問題などまで調べ、根本的な解決策を探しました。その結果、ホルムアルデヒドについては、使用量を減らすため、高品質な長繊維のコットンを採用する、糸の紡ぎ方を変える、生地を縮ませてから加工するなどの対策を講じました。原綿は、地球環境に大きな負荷をかけ、あまりに不自然な方法で栽培されている通常品からオーガニックコットンへと切り替えます。いずれもコストアップを招く対策ですが、長い目で見たとき、地球を傷めてしまえば人類の繁栄もないからと踏みきったわけです。
このように原材料にまで目を向ければ、地球環境への負荷を小さくしながら同じ製品を作ることができます。でも、その負荷がゼロになることはありません。どのような製品でも、その製造と輸送に大量の資源が使われているのです。リサイクル原料を使う場合でも、リサイクルの際にさまざまな資源を消費します。地球環境に対する負荷を小さくする切り札は、消費者が買っては捨てる製品の量を減らすこと。だから、パタゴニアは「Don't Buy This Jacket」と広告で訴えたわけです。