弱みの効用

 企業の戦略策定などでは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Thread)の4要素を見極めるSWOT分析という手法がよく使われます。この分析に照らし、強みを活かし弱みを克服しながら、機会と脅威に対峙していくことが、ビジネス・スクールなどで教えられる戦略策定の標準的なアプローチです。

 マーケティング・リフレーミングは、その逆をいきます。視点を転換することで、制約や弱みというマイナス要素がプラス要素に変わることを重視する発想。これがマーケティング・リフレーミングなのです。

 企業や地域の制約を無理に動かそうとしたり、弱みを切り離そうとしたりはしないことが、結局は企業や地域の成長や強みにつながっていく。マーケティング・リフレーミングはこのように考えます。逆説的ですが、企業や地域が制約や弱みを捨てないことが、希少価値の形成や、競争回避の実現につながっていくのです。

希少価値の源泉

 具体的に考えてみましょう。たとえば、私たちの研究事例でいえば、舞妓や芸妓の行き交う京都の花街のお茶屋は、いまだに「一見さんお断り」の慣行を守っています。お座敷の需要が十分にある時代ならともかく、需要が減少傾向にある場合には、この慣行は花街の制約です。

 しかし、視点を変えると、一見さんお断りの慣行を守り続けている花街は、誰もが目にすることのできるわけではない、特殊な世界であるわけです。そして、この希少性があるからこそ、チケットさえ買えば誰でも入場できる劇場での踊りの会(「都をどり」「鴨川をどり」「京をどり」など)に、内外の大勢の観光客が押し寄せるのです。

 このように、制約があればこそ生まれる希少性があります。感心するのは、京都の花街の人たちが、目先の制約を無理に動かそうとして、希少性の源泉を枯らしてしまうことなく、その活かし方を、時代の変化に応じて次々と生み出してきたことです。

競争回避と迅速な実践

 そして、制約や弱みを捨てないことは、競争回避の実現にもつながりやすいという利点があります。私たちの研究事例でいえば、「世界初のアルコール0.00%のビールテイスト飲料」で話題を集めたキリンフリーは、発売直後の2009年5月にコンビニのビールテイスト飲料市場で、95.3%という圧倒的なシェアを獲得しています。そのひとつの重要な要因は、従前のビールテイスト飲料市場の低迷を目にしたライバル企業がこの市場に力を入れなかったことです。このように、競争の問題を考えると、多くの人々や組織が目を背けがちな制約や弱みであるからこそ、可能性があるのです。

 加えて、マーケティング・リフレーミングには、次のような利点もあります。企業や地域の制約を動かそうとしたり、弱みを切り話したりしようとすれば、内外に軋轢が生じます。しかし、制約や弱みをそのまま活かそうとするのであれば、こうした摩擦は生じません。マーケティング・リフレーミングは、企業や地域のマーケティングのスピーディーな展開を実現する知恵でもあるのです。

 最後に以上の制約や障害を生かす知恵を(図2)にまとめておきましょう。

(図2)制約と障害は使いよう