世界最高峰の経営思想家ゲイリー・ハメルの新刊『経営は何をすべきか』が発売になった。年末に同氏にインタビューした際、盟友のC.K.プラハラード氏についても伺った。
マネジメントに興味をもつようになったきっかけは、『コア・コンピタンス経営』を読んだことでした。1995年に刊行の同書は、自社にとってもっとも守るべき中核的要素な何かを問い、さらに、未来を自ら構想し、そのために必要なコア・コンピタンスを構築せよ、というものでした。
経営の方法論は無数に存在します。そのなかでも『コア・コンピタンス経営』で提唱されているマネジメントスタイルは非常に魅力的でした。環境に合せていこうという発想より、自ら新しい社会を作り出していこうという主体的なメッセージがあります。「こんな経営をしたい。こんな経営の会社で働きたい」そう思わせるビジョン(マネジメント・スタイル)こそ、多くの人を引き付け、描かれた未来を実現化させるのではないでしょうか。
同書の著者は、ゲイリー・ハメルとC.K.プラハードのふたりで、本書以降、それぞれが目覚ましい業績を上げています。ところが残念なことに、2010年の4月プラハラード氏は68歳の若さで亡くなられました。
本誌は、昨年、ゲイリー・ハメル氏にインタビューさせていただいた際、プラハラード氏についても伺いました(インタビューの内容は3月号をご覧ください)。するとハメル氏は、長年にわたって同じ考えで仕事をしてきたので、客観的に評価をするのは簡単ではないと前置きしたあと、次のように語りました。
「彼の最大の功績は、発展途上国の20億人という人口をグローバル経済の中に引き入れた『ボトム・オブ・ピラミッド』(BOP)という概念を打ち出したことでしょう。そして、企業はそのために多くのイノベーションと新しいビジネスモデル、新しい製品やサービスを生み出さなければならないと唱えたことです」と。
プラハラード氏がBOPを提唱したのが、2005年に刊行された『ネクスト・マーケット』でした。その後、新興国の台頭とともに、企業のグローバル化においてリバース・イノベーションが欠かせないものとなってきました。この流れ裏づける概念を先駆的に提唱したのが、プラハラード氏だったのです。
「彼はインド出身であったこともあり、常にアウトサイダー的な視点を持っていたように思います。当たり前とされていることに対して、『へえー、本当にそんな風にやらなきゃいけないものかね』といった疑問を常に抱いていました。彼が持っていたのは、第一に勇気、第二に反骨精神、そして第三に他人への深い思いやりでした。それは、どんな相手にもすぐに伝わったと思います。他人への思いやりほど、人間のインパクトを倍加させるものはありません」
ハメル氏から伝わるプラハラード氏の人間像は、まさに世界のためのイノベーションを推奨した人に相応しいものでした。
そのハメル氏も新刊『経営は何をすべきか』が発売になりました。ハメル流未来志向の経営論と言える本格的マネジメント書です。従来の大企業が得意とする、「管理」型のマネジメントを忌み嫌い、階層型の組織構造を否定してきましたハメル氏。経営論のイノベータ―と言っても過言ではないでしょう。新刊では、経営も組織も、働く人々に創造性をいかに発揮させさせるかが中心課題であると述べられています。ハメル氏とプラハラード氏、おふたりの考えは常にマネジメントの未来を志向するものです。そして、未来は予測するものではなく、自らつくり出していくものであることを、このマネジメントの先駆者たちは教えてくれるのです。(編集長・岩佐文夫)