で、もうひとつの『フラガール』。こちらははっきりとしたモデルがあり、実話に基づいている。舞台は昭和40年、福島県いわき市の炭鉱町。時代は石炭から石油へと変わり、閉山が相次ぎ、町は先細りの一途をたどっていた。炭鉱業を営む地元企業、常磐炭礦も破綻の危機に瀕する。
そこに、起死回生のプロジェクトとして豊富な温泉を利用したレジャー施設「常磐ハワイアンセンター」の計画が突如として出てくる。従業員の雇用の確保を一義的な目的とする経営者(岸部一徳)は、炭鉱で働く人々とその家族をそのまま使って「常磐ハワイアンセンター」のオペレーションを回していこうと決意する。施設の目玉はフラダンスショー。会社は従業員やその娘をダンサーにしようとして募集をかける。応募したのは、炭鉱労働者を兄に持つ少女(蒼井優)ほか数名だけだった。
そんな中、元SKD(松竹歌劇団)のプロのダンサー(松雪泰子)がフラダンスの教師として東京から招かれる。渋々やって来たダンス教師は、教える相手がズブの素人と分かり、はじめは完全にやる気を失ってしまう。
ところが炭鉱の町からの脱皮を図る従業員と家族との情熱に支えられ、ダンサー希望者が徐々に集まり、ダンス教師の心にも火がつく。彼女たちは厳しい練習と試行錯誤を経てダンサーとして成長していく。素人だった常磐炭礦の社員たちの奮闘努力の末、ついに「常磐ハワイアンセンター」が開業、成長したフラガールたちは見事に初舞台を務め、拍手喝采を受ける。
立て続けに観て気づいたのだが、この2本の映画にはあからさまな共通点と相違点がある。共通点としては、次の通り。(1)いずれも現実のモデルがある実話ベース(『プラダを着た悪魔』の方はあくまでもモデルを仄めかすにとどまっているが)の映画であり、(2)田舎出身の主人公(アン・ハサウェイと蒼井優)が刻苦の経験を経て成長するという典型的な青春ドラマのプロットであり、(3)企業組織(ファッション誌の編集部と炭鉱企業)を舞台にしており、(4)「路線転換」(有名ファッション誌の編集長アシスタントから本格派ジャーナリストへの転身と、炭鉱の町の少女からフラダンサーへの転身および組織のレベルでは炭鉱業からレジャー施設業への業態転換)がテーマとなっている。