――『銃・病原菌・鉄』もそのような知識ベースのなかから生まれたのですか?
ジャレド氏:1966年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で生理学の研究をすることになりました。ただ、そのときに私はすでにニューギニアでの鳥類の研究に関心を持っていたのです。ですが私の専門分野は生理学、特に胆嚢です。そこでUCLA のメディカルスクールの学長に、1年に3ヶ月ニューギニアに、鳥類の研究をするために行かせてほしいと掛け合ったところ、許可がおり、鳥類の研究も続けることができたのです。恵まれた環境の中で私は胆嚢の研究、生理学を教えるということをしながらニューギニアでの研究にも興味を続けることができたのです。この結果として生まれたのが『銃・病原菌・鉄』でした。
――いろいろなご興味をもたれ、人生を通して追求してきたわけですね。日本ではむしろ、専門に特化したスペシャリストが重宝されますが、専門を絞らず、幅広く研究領域を広げることのメリットはどのようなことにあるのでしょうか。
ジャレド氏:今世界が抱える問題、また身近にある素朴な質問についても、ひとつの専門分野では解決できないことが多いのです。私たちは、より多くの知識を組み合わせて歴史を見ることで、「原則」を知ることができます。けれどもちろんそれだけで物事を決められるわけではありません。この原則を元に状況や条件を考えなければならないのです。
民族のルーツを例に挙げてみましょう。日本人であれば、「日本人って一体誰なんだろう」ということを必ず一度は考えると思うのです。しかしその疑問の解決には、多くの学問的分野からの考察が必要となってきます。当然、アイヌ民族の研究をするでしょう。また顔が中国人や韓国人と似ていることにも着目するでしょうし、遺伝子的なつながりも研究するでしょう。そのルーツは大陸にあるのか。だとしたら、中国や韓国との言葉の違いはどう説明するのか。あるいは植物学も関わってくるでしょう。最初に日本で栽培された植物は何なのかということはこの問題の大きなカギとなります。このようにいろんなことを考えなければならないのです。
人間が根本的に持つ素朴な質問に答えようとするならば、どうしても幅広い分野の知識を組み合わせが必要になります。だからこそ、いろんな分野を幅広く網羅することが大切なのだと思います。