●顧客は企業よりも説得力を持っている
顧客のほうが優れた営業担当者になってくれる。マーク・ベニオフは、セールスフォース・ドットコム(SFDC)を立ち上げる初期の段階でこのことに気づいた。オラクルやSAPといった競合とは違い、彼には数百万ドルもの予算はなかった。だから代わりに、主要都市の市場で潜在顧客と既存顧客を集めて、対面式のミーティングを開いた。ベニオフにとって意外なことに、潜在顧客はベニオフやSFDC幹部と話すよりも、既存顧客と話をしたがった。その結果、イベントに参加した潜在顧客の80%が実際に顧客となったのである。驚くべき成約率だ。そして企業の営業部員と違って、彼らSFDCの既存顧客には営業トレーニングは不要であった。
●顧客は企業よりも買い手のニーズをよく知っている
いまだに存在する大きな誤解のひとつに、顧客は自分のニーズをうまく説明できない――ましてや自分が満足できる製品のアイデアなど思いつかない、というものがある。しかし多くの信頼できる調査で示されているのは、成功したイノベーションのなかには顧客が起点となったものが少なくないということだ。マサチューセッツ工科大学のエリック・フォン・ヒッペルが行った調査によると、9つの業界における1193件の商業的に成功したイノベーションのうち、737件(60%)が顧客に由来したものだったという。製品開発の成功率の低迷に悩んでいる企業は、外に目を向けて顧客のイノベーターを探すべきである。
フォン・ヒッペルや他の人々による研究を元に、3Mの医療用製品部門は、これまで成果が上がっていなかったイノベーションの取り組みに弾みをつけようと、1990年代に最後の望みを賭けたプロジェクトをスタートした。内部のイノベーション・プロセスを飛び越え、外部の「先端的ユーザー」が創造した画期的なイノベーションを探し始めたのだ。その成果を3Mの一般的な製品開発プロジェクトと比較してみると、違いは劇的だった。先端的ユーザーによるイノベーションは、5年目の平均売上げが1億4600万ドル。これに対して、内部のイノベーションは1800万ドルだった。
したがって、この事実はかなり以前から明らかになっていたということだ。残る大きな課題は、より多くの企業がこのことに気づき、顧客の知識を日々のオペレーションに取り入れる仕組みを構築することである。
●ターゲット市場の潜在顧客は、企業よりもその顧客とつながりたいと考えている
私たちのほとんどは生来的に、友人や仲間とつながるための創造的で新しい方法を受け入れる。フェイスブックの立ち上げも、まさにこのことが基盤となっている。企業は顧客が歓迎するような連帯の機会を創造できるかどうか、確信を持てないことが多い。それは可能だ――ただし、「顧客は企業との連帯を望んでいる」というありがちな誤解をしなければである。顧客は仲間とつながりたいと望んでいるが、仲間というのは企業ではなく、その顧客なのだ。
その一例が、10代の少女向けにP&Gが展開するウェブサイト上のコミュニティ「BeingGirl」(ビーイングガール)である。これは当初、思春期の少女に向けて生理用品を宣伝するために立ち上げられた。というのも、テレビや印刷媒体の宣伝では、彼女たちを気恥ずかしくさせるからだ。しかしP&Gが依頼した専門家によってつくられたコンテンツは、関心を集めることができなかった。この失敗の後、P&Gはフォーラムをつくり、女性へと成長していくうえでの問題や悩みを少女たちが語り合えるようにした。これをきっかけにウェブサイトは人気を博し、世界中の少女たちが熱心に会話に加わるようになった。そしてP&Gは以前よりもさりげなく、かつ効果的に製品を売れるようになったのである。顧客は、情報が企業からではなく仲間から発信されたものであれば、より信頼し関心を持つ傾向があるということだ。
このように、企業よりも顧客のほうがうまくやれることは多数ある。事業の成長に力を貸してもらうために、あなたはどんなふうに顧客を巻きこんでいるだろうか。
原文:The Things Customers Can Do Better Than You April 5, 2012