ビル・リーは、カスタマー・アドボカシー(顧客から企業に提供される支援)と顧客コミュニティに関する世界的な権威だ。マイクロソフト、アップル、オラクル、IBM、ウェルズ・ファーゴ、AT&Tなどを含む数百のトップ企業がリーのコンセプトを取り入れている。「顧客との絆を深め、顧客からの支援を活用することが最良のマーケティング」という彼のセオリーと事例を紹介していく。


 顧客が行う本当に重要なことは1つだけだと、多くの企業が考えている。すなわち、自社の製品やサービスを購入することだ。しかし、いまこそこうした考え方を見直すべきである。実際、顧客を自社の成長のエネルギー源として見る企業が増えてきている。

 たとえばフェイスブックには、1セントも払わない顧客が10億人近くいる。それでも同社は500億ドル以上の評価を受けている。従業員は3000人ほどしかいないが、顧客が購入以外の面で非常に高い潜在価値を提供しているからだ。一言でいうと、フェイスブックなどの先進的な企業は、自社の事業を成長させるものとして顧客を見ているのである。

 これは天才だけがなせる技ではない。実際、マーク・ザッカーバーグや、セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフは、顧客の実態、顧客の願望、そして顧客の能力に関する明白な現実を認識し、それらを活用することに専念しているだけなのだ。他の多くの企業はそれらを活用するのではなく、むしろ対抗している。以下に、顧客に関する5つの現実を示そう。

●企業よりも顧客のほうが、顧客のことをよく知っている

 投資家がフェイスブックに天文学的な価値をつけたのは、これによるところが大きい。フェイスブックが生み出すような情報を、従来型の企業が生み出そうとしたらどうするだろうか。つまり、人々が見ている映画、旅行している場所、読んでいる本、行ってみたレストランなどに関するリアルタイムの情報である。たいていの企業であれば行うであろう情報収集の作業をフェイスブックは省略し、代わりにその情報を顧客に提供させたのだ。

 法律事務所に法務情報の調査サービスを提供しているウエストローは、クライアントたちが他社や他市場の動向を知ることで自分たちを比較評価したいと望んでいることに気づいた。そこで「ウエスト・ピアモニター」を立ち上げた。これは、参加クライアントから提供される財務業績や事業業績のデータを集計し、出所を伏せて公開するサービスだ。結果として、非常に利益の出る新事業となった。

●顧客は企業よりも信頼される

 代理店や自社の従業員よりも、顧客のほうが優れたマーケターになる。たとえば、ビジネス・アナリティクスのソフトウエアとサービスを提供するSASカナダは数年前、顧客維持に関して深刻な問題に直面していた。90%台後半であった顧客維持率が80%台半ばまでに下落し、さらに低下し続けていた。同社幹部にとって、これは非常に苛立たしい問題だった。なぜなら、SASのソフトウエアは顧客ニーズに見事に応えていたからだ。問題は、顧客がそれを認識していないことだった。ウォーリー・シーセン率いるSAS社内の小チームは、SAS自身がこのことを指摘し続けても無駄だと考え、代わりに250名の「チャンピオン顧客」(最も価値を提供してくれる顧客)を動員して応援団を編成し、代行してもらった。シーセンらの援助の下、応援団は20の主要都市で定期的なイベントを開催した。議題を設定し、講演者を選び(自分たちもプレゼンテーションを行い)、イベント終了後もオンライン・フォーラムや電子ニュースレターで連絡を取り合った。その結果、顧客維持率は90%台後半に回復したのである。