危機と混迷の局面においては、独裁や強権発動がしばしば正当化される。しかし、リーダーシップについて記事を重ねるナイアはこれを否定する。いま本当に必要なのは女性リーダーとソフト・パワーであるという。


 政治、ビジネス、社会の各分野における女性のリーダーシップが、世界中で顕著に現れてきた。政治でも指導者の立場に就く女性の数は増え続けている。最近の例ではジルマ・ルセフがブラジル初の女性大統領に就任したが、彼女以前にもチリのミシェル・バチェレ、アルゼンチンのクリスティーナ・キルチネル、ドイツのアンゲラ・メルケルなどがいる。インドでは、議席の3分の1を女性に割り当てる法案が2010年に可決された。

 行政の他の領域においても、女性の第一線への進出が続いている。たとえば、2010年11月にバラク・オバマ米大統領がインドを訪問した際には、複数の女性が重要な役割を担っていた。注目を集めたのはもちろんミシェル・オバマとソニア・ガンディーだが、ヒラリー・クリントン米国務長官も米印関係の強化に大きく貢献したし、ニルパマ・ラオ外務次官、ミーラ・シャンカル駐米大使、ガイトリ・クマール米担当局長の3人のインド人女性官僚も活躍した。

 この傾向は、今日の社会においてソフト・パワーがますます必要となってきていることを反映している。ハーバード大学ケネディ行政大学院の元学長ジョセフ・S・ナイの定義によると、ソフト・パワーとは、説得や心をつかむことで影響力やリーダーシップを行使する能力のことで、それらが強制ではなく支持や共感にもとづいていることを指す。ソフト・パワーは決して女性限定の能力ではなく、たとえばオバマ大統領もソフト・パワーを効果的に活用している。

 とはいえ女性のほうが、威嚇や排除ではなく対話や結束などの手段を用いて、ソフト・パワーを多く活用する傾向が見られる。ある研究によれば、女性は男性に比べて仲介力と人脈づくりに優れ、関係の構築に重きを置いている。また、危機の最中に男性より冷静さを保つという傾向もある。

 深刻な打撃を受けている現在のビジネス環境において、企業リーダーに癒しの力が要求されているということに疑いの余地はないだろう。ビジネスの信頼回復に、ソフト・パワーが不可欠となっている。それを発揮する機会を女性たちは得られるだろうか。

 多くの企業が、女性リーダーの価値を認識し始めている。シルビア・ヒューレットが最近指摘していたように、不況後のヨーロッパではジェンダーの多様性への関心が高まっている。カナダの一部の企業では、女性をリーダーの地位に登用する努力目標を取り入れている。グローブ・アンド・メール紙の報道によると、これらの取り組みは上級管理職に就く女性の緩やかな増加につながっている。

 一部でこのような改革が見られるものの、ビジネス界全体においては深刻なジェンダーの多様性の欠如が見られる。企業の幹部人口全体における女性の割合は、たった5%である。

 強い批判を浴びる覚悟で、私は女性を支持する側に一票を投じたい。女性の幹部ならではの特性を認めることは現在の環境において不可避であり、CEOはビジネス上不可欠な変革を実現するためにも、女性の後押しに取り組まなくてはならない。

 あなたもそう思うだろうか?


HBR.ORG原文:Women and Soft Power in Business January 19, 2011