人々の発言に影響を及ぼす
「今日の世界では、人々の発言をコントロールすることはもはや不可能である」。評論家たちは口々にこう述べており、結果として多くの企業が、ソーシャルネットワーク化された新たな社会に対して防御的な姿勢をとっている。アメリカ建国の父たちは、そうではなかった。
私たちが今日経験している状況と同じように、1700年代にもコミュニケーションが爆発的に広がった。郵便システムができ、国中の人々が個人どうしで直接にやり取りができるようになった。18世紀末の最後の30年には、あらゆる種類の出版物の発行部数が、それ以前の150年間と比較して4倍になった。現代の米マジソン街(広告会社が多いことで有名)と似たような場所であったロンドンのグラブ・ストリートは、大衆を説得したり扇動したりするための文章を書く三文文士たちの街として賑わった。グラブ・ストリートのような場所は、アメリカを含め他の国々にも出現していった。
アメリカ独立革命の初期には、こうしたコミュニケーションがフルに活用された。有名な「通信委員会」(Committees of Correspondence)が組織され、同志たちが意見を交換し発表するためのコミュニティがつくられた。自由を愛する聡明な彼らは、現代のリビアやエジプト、シリアなどにいる人々と同類の反政府勢力だった。
現在では建国の父たちとして知られるグループが、やがて革命のリーダーとなっていった。主導権を握るにあたり、彼らは武力や法的手段を使ったのでもなければ、三文文士を使って言論を操作したわけでもない。彼らは大きな理想を示して、人々の発言を影響下に置いたのである。つまり、市民がどのように生活を改善し、富や自由を得て、幸せを追求できるかを示す新たなコンセプトを掲げたのだ。アイデアに関する発言とその実現が同じ人々によって行われたのは、これが初めてのことだった。
これこそが、現代の企業が持っているチャンスである――あまり認識されていないのだが。
企業の側から影響を与える:日立データシステムズの事例
ソーシャルメディアやウェブ・マーケティングに取り組む企業の多くは、人気ブロガーと関わることで、その読者の購買意思決定に影響を与えようとしている。私はこれをマーケティングのブランシュ・デュボア(映画「欲望という名の電車」の主人公)的アプローチと呼ぶ。「見知らぬ人の好意に頼っている」のだ。また、こうした企業のソーシャルメディアへのアプローチは防御的である。投稿をチェックする人を雇い、否定的なコメントに素早く対応させている。
それも悪いことではない。しかし今日の企業には、建国の父たちのやり方で人々の発言を影響下に置ける大きなチャンスがある。というのも、企業にはどんなブロガーも学者も持ち得ない、2つのものがあるからだ。(1)企業には顧客がおり、なかにはその製品やサービスを使って大きな成功を遂げた人がいるはずだ。(2)企業の内部には特定の問題に詳しい専門家がおり、そのなかには最前線で(1)のような顧客と日々関わっている人たちがいる。彼らこそが解決策を実行している人たちで、市場と対話すべき人たちだ。
ストレージソリューションのサービスを提供する日立データシステムズ(HDS)は、自社のソリューションに対する人々の広い認知を獲得できず苦労した時に、このアプローチを採用した。HDSには熱心な顧客がいたが、資金力のある大手の競合と争ってもいた。拙著The Hidden Wealth of Customers(未訳:「顧客に秘められた本当の価値」)で述べたように、同社マーケティング担当の幹部、ブライアン・ハウスホルダーとアシム・ザヒアは建国の父たちと同様のアプローチをとり、対話におけるリーダーシップを握った。以下にその方法を示そう。