●専門家を先頭に立たせる

 HDSはレベルの高い人々の関心を引くために、同社の名高いCTO(最高技術責任者)ヒュー・ヨシダにスポットライトを当てた。ヨシダの持つ専門的な知識と経験は彼のブログで公開され、今や業界で最も影響力を持つ情報源のひとつとなっている。

 ヨシダは対象となるテーマについて、深く確かな経験を発信し、彼のアイデアを実践しようとする者に力を貸す。そして建国の父たちと同じように、大きな理想を示すことで、知識と経験をより広く伝えている。社会的イノベーション、ビデオ監視、映画の驚異的な特殊効果などを語り、注目を集めているのだ。

●顧客が直面している問題を、最重要事項として前面に据える

 HDSの戦略には、経営幹部レベルの顧客を引き付けようというものがある(詳しくは前々回の記事を参照)。ヨシダは経営層の読者を意識して、最先端のトレンドに関する洞察や、経営層にとって重要となる話題を提供する。たとえばプライベート・クラウド・コンピューティング、仮想化、ビッグデータ、統合ストレージ管理などについてだ。単にHDSのソリューションを勧めるのではなく、経営層が重要な問題についてじっくり考えられるよう後押しを続けるのである。

 ヨシダが実際にHDSのソリューションを勧める時、それは従来のマーケティング・コミュニケーションとは違ったものに映る。彼はマーケティング部門の顔のわからない誰かではなく、第一線で活躍し、自分の仕事や技術に誇りを持っている専門家だからである。

●受け身に回らず、リードする

 他の多くの企業と同様に、HDSはソーシャルメディアと新しいコミュニケーション方法を積極的に取り入れている。だがその理由は、流行や義務感に捕らわれてのことではない。単純に、顧客や買い手がいる場所へと向かったのである。

 顧客の後を追って、同社はフェイスブックページとツイッタ―のアカウントを立ち上げた。しかし、自社のことを伝えるだけのページにする、という他社の轍は踏まなかった。顧客が直面している問題を解決するというアプローチを、ここにも適用したのだ。たとえばフェイスブックページには、ヨシダが書いた最新のビデオ技術やストレージのトレンドについてのブログへのリンクを掲載する。ツイッタ―では、データセンターにかかるコストをどれほど節約できるかを述べた論文へのリンクを載せたりする。

●顧客の経験を中心に考え、前面に据える

 HDSでは、先駆的なアイデアを見出す取り組みにおいて、顧客の体験談が中心となっている。ザヒアは言う。「たとえば銀行のCFO(最高財務責任者)が読者で、ある問題に直面しているとすれば、その問題に取り組んだことがあるウォール街の大手銀行の事例を紹介します」。さらに、HDSは顧客との緊密な連携にもとづいて、コミュニケーションのコンテンツを展開していく。常に情報を提供し、インプットやフィードバックをもらい、顧客の体験談を紹介し、イベントでは壇上に上がってもらう。HDSが地歩を築いていない地域の顧客や潜在顧客に対しては、新旧のさまざまな媒体を使って補っている。

 過去の歴史をふまえれば、今日の顧客の目覚め、そしてソーシャルメディアがもたらす混沌に対し、企業は心配したりパニックを起こしたりする必要はない。むしろ、それらは大きなチャンスを意味している。ただし、企業のマネジャーやリーダーが考え方や行動を見直し、好機を捕らえる必要がある。建国の父たち、そして現在のHDSのように。


HBR.ORG原文:How to Harness the Customer Awakening August 28, 2012