「権力」というと悪いイメージがつきまとう。しかし課題達成に最も必要かつ有効なのは、リーダーシップや感情的知性よりも、権力を理解し操る能力である――こう主張するのが、組織行動論の権威フェッファーだ。彼の論考から、権力基盤とは単なる上意下達的な力学ではなく、献身とコラボレーションの産物であるとわかる。
自分のアイデアを実現するため、あるいは意味をなさない方針を自分の力で変えるために、組織の中でもっと強い「権力」を手に入れたい――そう願う人たちは往々にして、権力的地位を狙って「大きな一手」を打とうとする。この賭けは勝算が低いだけでなく、パワーベース(権力基盤)は小さなことの積み重ねでつくられるという現実を無視している。地味な一手を積み重ねることで、現在の地位に関係なく、ほぼ誰もが大きな影響力を手にすることができるのだ。
最も必要なのは、次の条件を備えた活動に積極的に関わることである。a) 組織内外のさまざまな人々と知り合うことができ、b) 情報の流れの中心に自分を位置づけることができ、c) 平凡でつまらなく見えるため、自分以外には引き受けたがる人がいないこと。
ある大手一流経営コンサルティング会社に入社した、マットの例を見てみよう。彼の会社は公共部門との取引を増やしたいと考えていた。そこでマットは、公共部門のさまざまな人たちをスピーカーとして自社に招き、セミナーを開催するという役目を買って出た。公共部門との人的交流を活発にして、自社の知識と人脈を強化しようと考えたのだ。マットは予算をもらい、講演会を取り仕切った。そして会社に重要な市場機会をもたらしたことで、同僚のコンサルタントたちから多くの称賛を受けた。またマットの行動は、スピーカーとして(有償で)招待した人たちからも感謝された。
同様の例として、マイクの場合を見てみよう。ヘッジファンド会社で比較的非力な立場にあったマイクは、アナリスト採用の担当者に志願した。自社が優秀なアナリストを必要としているのは誰もが同意するところであったが、入社数年後には会社を去りビジネススクールへと戻っていくことが目に見えている人材を採用することに、熱くなれる社員は1人もいなかった。魅力的とはいえないこのルーチン業務を引き受けたマイクであったが、採用のスケジュールを調整したりイベントを取り仕切ったりしていくなかで、社内の全員と接触を持つことができた。さらに、会社のメインの連絡窓口となることで、多くのアナリストとの幅広い人脈を築いていった。まだ駆け出しの自分に真剣に対応してくれた人物として、マットの存在はアナリストたちの心に強く刻まれたからだ。
金融サービス会社出身のメリンダは、大手インターネットマーケティング会社への転職を機にパワーベースを築き始めた。転職先の会社では部門横断的なつながりが希薄で、市場の進展に関する情報を得るための組織的な仕組みがないことに彼女は気付いた。そこで、社外からインターネットや他の分野の専門家を招いて行う社内セミナーを企画した。縦割り型の社内のあらゆる部署から参加者を募り、未来の顧客やパートナーとなりうる人々と会社との間を取り持っていく過程で、メリンダは広く知られ貴重な存在になっていった。