例外や異端となることを嫌い、同調圧力に荷担し、屈する――これは日本固有の文化的弊害などでは決してなく、多くの米CEOたちも同様であるという。組織行動論の権威フェッファーは「勇気」というシンプルな言葉を用いて、リーダーに必要な資質を語る。
数年前のことだが、エアープロダクツの当時のCEOからこんな話を聞いた。彼の経営チームがレイオフを決断し計画するのに2カ月、それを実行するのに2週間を要した。そして、それによって生じた損失を埋め合わせるのには2年もかかったという。そこまで大きな損失を被るようなことをなぜ行ったのか、という私の問いに対して、彼はこう答えた。「他社のCEOたちやウォール街から求められていたからです」
誰もがやっていることや周囲の期待に反することをするのは、勇気が必要だ。バンク・オブ・アメリカに何十年も勤務していたある友人から、同社では完全に承知のうえで不良融資の貸付を行っていたという話を聞いた。同社の行員たちは馬鹿ではない。しかし、他の銀行がどこも同様の融資を行っている状況であったし、証券化を通じて債権をよそに押しつけることさえできれば、銀行は収益を上げ続けることができる。さらに、他の大手銀行に倣えとする同調圧力もあった。これらの例が示すように、CEOには新しい信念を掲げるだけでなく、周囲の批判を気にせず信念に従って行動する勇気も必要とされている。
勇気あるCEOの代表的な例をいくつかご覧いただきたい。
●2001年9月11日の悲劇の後、多くの航空会社が数万人規模のレイオフを行ったが、サウスウエスト航空はこれに追随しなかった。これによって解雇や自宅待機命令をしない会社として評判を維持し、市場シェアを拡大していった。
●ホールフーズ・マーケットの創業者ジョン・マッキーは、1990年代後半にサンフランシスコで開かれた年次総会において、同社の店舗はオープン後しばらく経ってから収益を上げ始めることを投資アナリストに説明した。また、自社の客層に適した店舗用地は限られているため、優良物件があれば積極的に取得していくという会社の方針も伝えた。アナリストはこれが短期的には収益を圧迫するかもしれないと考えれば、株を売りと判断することもできた。
●紳士服のディスカウントチェーンであるメンズ・ウエアハウスの創業者ジョージ・ジマーは、たとえアナリストたちの懸念となる内容であろうとも、自社固有の文化、価値観、そして理念を表明することを辞さなかった。
●腎臓透析サービスを提供するダビータのCEO、ケント・ティリは、「新しい、自分たちの、特別な」(new, ours, and special)会社を築く取り組みのなかで、みずからがコスチュームを着て後方宙返りをしているところを動画に収めている。
●アップルのスティーブ・ジョブズは、巨額の内部留保に対する批判をかわし、不況の中でも革新的な新製品を発表し続けた。
プロクター・アンド・ギャンブルの前CEO、A・G・ラフリーは、市場シェアを拡大する最適のタイミングは競合他社が撤退している時だと指摘している。常識的に考えても、他の誰もがやっていることを真似するだけでは特別な見返りを得られるはずはなく、基本的には他者と同じ結果にたどり着くであろう。
昨今、CEOの報酬が高騰し続けている。高額の報酬は、会社の長期的利益を理解してそれに適した行動を取れる、革新的で勇気のあるリーダーを生む一助となるのだろうか。そうはならない。ほとんどのCEOが、外部の専門家を雇ってベンチマークを行っている。ベンチマークによって自社をトップに導くことができると考えているようだ。そしてCEOたちは、起こったことを批評するのには長けているが未来を予言する能力の低い経済評論家やアナリストの話に、耳を傾けすぎている。(アップルを「市場に合っていない」と批判したことのある人間1人につき1ドルもらえるとしたら、私は引退するのに十分な金額を手に入れることができるだろう。)
最も優れた企業やリーダーは、ビジネスにおける真の成功要因を理解している――つまり、顧客と従業員の関係性を重視した長期的な展望が競争優位の源泉であること、そして意思決定において理念と倫理を重視することである。優れたCEOは、組織の成功要因と個人の行動について実証的で洗練された知識を持つだけではない。彼らをその他大勢と分かつのは、自身の洞察が従来の常識に反するように思える場合でも(もしくは特にそのような場合に)、臆せず実践していく勇気を持っているかどうかである。