成功要因を誤って特定してしまうことは、事業、人事考課、キャリア形成などに広く見られる落とし穴である。相関性はあるが因果関係はない要因に、目を奪われないよう注意すべきであるとマグレイスは述べる。
我々専門家は事業を調査する際、相関関係が認められる証拠を頼りに、何が有効で何がそうでないかという理論を打ち立てる。それらの証拠はしかし、因果関係を示すものではない。ある1つの結果(たとえば好業績)に着目し、その原因を誤って特定してしまうのだ。私の同僚フィル・ローゼンツバイクが「ハロー効果」に関する研究で指摘している通り、これは我々が犯す過ちのなかでも重大なものである(ハロー効果とは、目立ちやすい結果がもたらす強い印象に引きずられ、その他の要因を正確に判断できなくなること)。
企業でもこれと似たような現象があり、私は「迷信的学習」と呼んでいる。ある行動の原因と結果の関係が明らかではない時、あるいは関係を誤って判断する時に、この迷信的学習が起きる。たとえば、成長市場に期せずして絶好のタイミングで参入できてしまった企業のマネジャーについて考えてみよう。このマネジャーは功労者と目され、度重なる昇進という見返りを受けて上級幹部の地位に就いた。常に成功を体験してきた彼は当然、それに見合った実力を備えているはずであろう――ところが、事実はそうではない。現代のビジネスで最も不公正な現実のひとつ、それは特に優れたスキルがなくても良い結果を手にできるということだ(漫画「ディルバート」が大人気の理由もこれに他ならない)。多くの場合、過大評価にとらわれている皆の目を覚ます唯一の気付け薬は、失敗や挫折が起こることである。このマネジャーをトラブルの対処に当たらせてみれば、彼の本当の能力が試され、明らかとなるはずだ。
たとえば、ある大手小売り企業が長期にわたって音楽CD事業で着実に収益を伸ばし、自社の成功を誇りとしていた。他社からシェアを奪い、多くのポピュラー音楽ファンを集める人気スポットになった。この例では、何が問題となるのだろうか。問題は、音楽業界全体の売上に対するCD売上の変化に、この会社の誰も注目していなかったという点である。デジタル・ダウンロードが爆発的に普及する一方、音楽業界全体の収益は減少傾向にあった。実際に起こっていたのは、CD売上による成功ではなく、深刻な低迷にあえぐ業界内でのシェア拡大にすぎなかったのだ。フォレスター・リサーチは、音楽業界全体(CD以外の分野も含む)が今後も緩やかな衰退を続けると予測している。マネジャーたちは業界全体を見渡して初めて、自分たちの成功が実際には行き詰まりであったことを理解した。
この原則は、キャリア形成においても当てはまる。失敗を経験したことがない人は、気をつけるべきである。予期せぬことが起きた時に、対処できない可能性が高いからだ。
成功の正しい原因を探る方法として望ましいのは、「事実を矛盾なく説明しうる理論」を組み立てておき、結果が判明する前に、現実と照らし合わせながらその理論を検証することである。次に、可能であれば、異なるさまざまな状況でその理論を検証し(学術用語で境界条件という)、すべての状況に当てはまるかどうかを確認する。再現可能な結果をもたらすプラクティスであれば、信用に値すると考えてもいいだろう。
HBR.net原文:On the Pitfalls of Superstitious Learning July 19, 2011