ロジャー・マーティンはビジネススクールの学長、およびグローバル企業の戦略アドバイザーを務める、戦略の第一人者だ。「統合思考」、「デザイン思考」の提唱者であり、Thinkers50による「最も影響力のある経営思想家50人」の第6位にも選ばれている。彼の論考から、戦略とは直線的な分析や安易なロジカル・シンキングを超えた思考プロセスの産物であることが見えてくる。本連載では、戦略の定義、本質、考え方をわかりやすく説明する彼の記事を紹介していく。
この世には戦略なるものがあふれている。立案しているのは、あらゆるタイプのCEO、戦略担当部門、戦略コンサルタントなどだ。しかし、そうした戦略には優れたものがほとんどない。さまざまな理由が挙げられるはずだが、ここでは私の考えを紹介しよう。ご意見があればお寄せいただきたい。
よい戦略とは、2つのまったく異なるロジックをクリエイティブに組み合わせて生まれるものだ。1つのロジックを直線的に分析して生まれるものではない。しかし、CEOや「戦略の専門家」が、クリエイティブに組み合わせるという必要条件を満たすことは稀である。
戦略を決めるうえで最も重要となるのは、「どこで戦うか」、そして「どのようにして勝つか」の2点だ。この2つの意思決定は、戦略面での優位性を確立するための決定的なワンツー・パンチである。すなわち、どの地域・分野で競うか、そして何を基盤として競うかということだ。しかしながら、両者を別々に検討することはできないし、どちらかを先に考えることもできない。優れた戦略とは、「どこで戦うか」と「どのようにして勝つか」がうまくフィットし、互いを強化し合うものなのである。
たとえば、自国市場でのみ事業を行うという選択は、「どこで戦うか」という点に関してはまったく問題ないように思える。また、技術の優位性で勝とうとする選択も、「どのようにして勝つか」に関してはまったく問題がなさそうだ。だが、両者を組み合わせると、ほぼ例外なく悪い戦略ができる。なぜなら、研究開発では規模の経済がグローバルレベルで働くため、一部の競合企業が事業をグローバル化する、自国という地域的に狭い範囲で戦う企業を吹き飛ばすからだ。これら2つの選択はフィットしないし、互いを強化することもない。
これとは対象的に、アップルが強いのは「どこで戦うか」と「どのようにして勝つか」が見事にマッチしているからだ。同社の「どこで戦うか」は、高関与型(消費者が購入前に十分な検討を行う)の電気製品市場(コンピュータ、音楽関連製品、通信機器)に幅広く参入すること。そして「どのようにして勝つか」は、ユーザー体験を重視したデザインと、同社をとりまくエコシステムを基盤として競うということだ。同社はこの2つの領域で築いてきた優れた能力を事業横断的に活用し、マックやiPod、iPhoneなどのヒット製品を生み出したのである。