問題は、このような異なるロジックの統合を、多くのCEO自身がトップに上り詰める手段としてこなかったことだ。1つのロジックを追求して昇進していく場合のほうがずっと多い。1つの問題を分析し、満足のいく回答を1つ導き出す。たとえば、どのようにグローバル化するか、どのようにコストを管理するか、どのように新製品を投入するかなどだ。2つの問題に対して美しく調和するような答えを探し出す機会がなかった。

 その結果、CEOの多くが「どこで戦うか」、あるいは「どのようにして勝つか」のどちらか一方だけを戦略として考えるようになる。たとえば、今日のグローバルな製薬業界でCEOらが定義する戦略は、これまで利益率が高かった分野で引き続き戦い、競合が行うことは何でもやるというものだ。これでは「どのようにして勝つか」については何も語っていない。右に倣えの戦略は、製薬業界の急速な業績悪化の一因となっている。

 一方で、ハイテク企業のCEOの場合は、独占的な技術で勝つという戦略が主流だ。この戦略は「どこで戦うか」については何も触れない。そのため、多数のハイテク企業が道を間違ってしまう。なぜなら、具体的にどこでその技術が使われるかが非常に重要だからだ。通信機器メーカーのノーテル・ネットワークスがその例である。同社は宝の山といえるほどの特許を持っていたが、破産裁判所に破産保護申請をすることとなった。

 では、企業の戦略部門や戦略コンサルタントはどうだろうか。彼らはあらゆる種類の概念的なツールを操って、「どこで戦うか」(5つの競争要因、プロフィット・マップなど)、「どのようにして勝つか」(経験曲線、バリューチェーン、VRIOフレームワークなど)を分析する。しかし、いまだに両者をうまく組み合わせるツールはできていない。これにはクリエイティブな洞察が必要になる。しかし、企業の戦略担当者や戦略コンサルタントになろうとする人は、彼らが「当て推量」と見なす作業よりも分析を行うほうが心地よいと感じる。だから、彼らは戦略分析の専門家になり、戦略の専門家にはならない。

 こうした理由から、CEOや「戦略の専門家」が良い戦略を生みだすことは稀なのだ、と私は考えている。戦略策定はクリエイティブな活動だ。また、よい戦略を生み出す方法は基本的な分析を超え、「どこで戦うか」と「どのようにして勝つか」に関する選択肢をクリエイティブに組み合わせるものなのだ。


HBR.ORG原文:Why Most CEOs Are Bad at Strategy January 06, 2010