顧客から得られる価値を拡大する

 ケイティという名の顧客について考えてみよう。彼女は優良顧客とまではいかないが、あなたの会社の製品やサービスを確実に購入する「中程度」の顧客である。仮に、ケイティが年間に6000ドル分を購入し、それが2400ドルの利益をもたらすとする(あなたの事業で中程度の顧客を想定し、数字を自由に置き換えてもよい)。彼女のCLVは7000ドル程度となるかもしれない。そして先進的な分析を行う企業でも、計算するのはここまでだ。

 だが、ケイティは定期的にブログを書き、さまざまなソーシャルメディアや職業上のネットワークに参加しており、そのネットワークには多数の潜在顧客がいる。そして彼女は尊敬を集めている。また、仕事関連の集まりで講演することにも前向きだ。そこでは、重要なプロジェクトでの成功――あなたの会社の製品やサービスが貢献した成功――について喜んで話をするだろう。ケイティはあなたが実施したNPS調査でも高いスコアを示した(NPS:推奨者の正味比率。推奨者とは「その製品・サービスを知人に紹介する可能性が非常に高い」とアンケートで回答する顧客のこと)。だが現在のところ(他のほとんどの推奨者と同様に)、ケイティは新規顧客を実際に呼び込んだ実績はない。なぜなら、あなたが彼女にコンタクトを取り協力を仰いでいないからだ。その理由は、上記で述べたような彼女の特性と、そこから生まれる潜在的価値がビッグデータに表れていないからである。

 ところで、ケイティは完全に架空の人物というわけではない。セールスフォース・ドットコムのMVP(最も価値のある専門家)顧客や、SASカナダの「チャンピオン顧客」、および拙著Hidden Wealth of Customers(顧客に秘められた本当の価値)で紹介した「ロックスター顧客」など、実際の顧客を組み合わせてつくった人物である。

 では、あなたの会社がケイティを、(購入金額は中程度だが)顧客紹介や見込み客の引き合いをもたらす可能性が高い顧客として認識したとしよう。あなたは彼女に講演の機会を提供し、彼女の業界の会議にともに出席し、オンラインセミナーに登場させ、地域の顧客フォーラムに招き、本人が希望すればリーダー的な役割を与え、これらの活動を通して彼女との関わりを深めていく。こうした活動の結果、その翌年には彼女が直接4人の顧客を呼び込み、さらに彼女をきっかけとした見込み客のうち17人が実際の顧客となったとする(あなたの企業の幹部が行うセミナーや講演より、ケイティが行うもののほうがよほど説得力がある。なぜなら、彼女も顧客の1人だからだ)。すると、彼女による顧客紹介や影響力の価値は(購買意思決定に影響する他の要因を考慮し、ケイティのアドボカシー活動を支援する経費を除いても)3万3080ドルとなる。つまり、購入者としての価値の13.8倍だ。

 ビッグデータの最大の目的はこうした価値を示すこと、そしてそれが実現されたら記録することである。